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20-1.ギャング殺し

 北緯約25.76度に位置するアメリカの都市、マイアミは熱帯モンスーン気候に属し、二月でも平均最低気温は約十七度で過ごしやすい。だが、すぐ南にキューバ共和国があるためラテン人の不法移民が絶えず、また一九七〇年代から伝説的なコロンビアの犯罪組織、メデジン・カルテルによる麻薬密輸の玄関になってしまったため、現在でも一部地域の治安が良好とは言い難い。


 その中でも、近年になって治安が悪化しているという噂のオーパ=ロッカ地区に、一台のバイクが現れた。小型のモトクロスバイクは平屋の家屋が建ち並ぶ区画を走り、やがてこのあたりでは比較的広い家の側で停まる。


 夜間と言うこともあり、家の周囲に人気は無い。バイクから降りた青いライダースーツを着た人物は、同色のフルフェイスヘルメットを脱ごうともせず住居に近づいていく。


 家を囲うフェンスは近隣に比べると高く、窓にも格子が嵌まっていた。電気がついているため、人がいるのは間違いなさそうだ。


 フルフェイスヘルメットは家の門の前に着くと、入り口に監視カメラが備え付けられてあるのを確認した。だが、彼はそのまま鉄製の鋳物門を両手で持つと、外側から内側に向かって押し始める。


 ライダースーツから一瞬だけ青い揺らめきが立ち上った。門を閉じていたかんぬき棒はくの字に曲がり、あっさりと隙間が出来る。フルフェイスヘルメットは、何事も無かったかのように敷地内へと侵入した。


 すると入り口のドアが開き、半袖のシャツを着たラテン系とおぼしき男性が現れた。両手で拳銃を保持している。


 男の姿を認めると、フルフェイスヘルメットは背中に背負っていたリュックサックからダンベルシャフトを引っ張り出した。ラテン系男性はスペイン語で何事かを叫んで銃を侵入者に向けた。しかし、フルフェイスヘルメットは無造作な動きで拳銃を持ったラテン人に近寄っていく。


 乾いた発射音が夜の空気を震わせた。弾丸は至近距離でライダースーツを着た人物に当たった……はずなのだが、倒れるどころ痛がる素振りも見せない。


 驚いたラテン系男性は、更に拳銃の引き金を引いた。しかし、フルフェイスヘルメットはまるでトイガンで行うサバイバルゲームのルールを無視して遊んでいる子供のような感じで意にも介せず、ダンベルシャフトを振り上げるとラテン男の首筋に叩きつけた。


 長さが約四〇センチ、重さが二キロ半ほどの重量物を、目にも留まらぬ速さで振り下ろされた男の首はあっさり折れた。しかし、フルフェイスヘルメットは念には念を入れ、もう一度同じ箇所を叩いて相手の死亡を確実なものにする。


 遺体をポーチに置き去りにしたライダースーツは、ドアから家の内部に侵入した。中は短い廊下になっており、奥には四人のラテン系男性がやはり拳銃を構えて立っている。


 だが、人数が四倍になっても事態は何も変わらなかった。ヘルメットやライダースーツが穴だらけになりながらも、バーベルシャフトを構えた人物は易々と敵に接近し、最初の被害者と同じ要領で彼らの首の骨を順番に折っていった。


 廊下の突き当たりにはリビングがあった。大きなテーブルの上には、白い粉が詰まったビニール袋がいくつか置いてあった。家の住人をことごとく殺害したフルフェイスヘルメットは、持ってきたリュックサックにビニール袋を放り込む。


 それから彼は周囲を見回して人気が無いのを確かめると、テーブルに絵はがきほどのカードを置いてから家を出て、小型モトクロスに乗って闇の中へと消えていった。

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