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8-5.RKG-3

「ここじゃ電波がつながりにくいので、監視室で車を呼んできます」

 彼はそう述べると、さっさと退出してしまう。

「車? 外出するの?」

 大きなぬいぐるみでも抱えるようにして志光に抱きついていたクレアが、茜と麗奈に問いかけた。

「これから車に乗って本部に移動します。千葉のゲートの方が近いんですけど、麻衣さんが新棟梁の身体を鍛え終わるまで他の悪魔に見せたくないそうです」

 麗奈から説明を受けた背の高い白人女性は、自らの大きな胸を押し当てた少年の頭部を軽く撫でた。

「まあ、麻衣は意外と見栄っ張りね」

「舐められたら悪魔は終わりですから」

「否定出来ないわね。でも、この場所は敵に監視されているわよ。車が襲撃されたらどうするの?」

「対戦車ライフルは長すぎて積めないので、RKG-3を積むしか無いですね」

「射程が違いすぎるわ。軽トラックにライフルを乗せて護衛に出来ないの?」

「大蔵さんに聞いてみますか?」

「そうして頂戴。分かっていると思うけど、私も同行するわ」

「はい。後は新棟梁に頼んでウニカも連れてこいと言われてます」

「志光君。ウニカに命令してくれる?」

「はい。ウニカ……僕を護衛しろ」

「……」

 志光が命令するとウニカは小さく頷いて彼の傍らに立った。茜は眼鏡に手を添えて、自動的に動く球体関節人形をためつすがめつする。

「ウニカを近くで見るのは初めてなんですよね。夢魔国で使える最高度の技術を利用した人形だと聞いているんですが」

「そう言われているわね。もっとも、魔物の大半は夢魔国の作ったプログラムを利用しているのだけれど。悪魔が人間以上の技術を有している数少ない分野よ」

「後は邪素エンジンですか?」

「実際はどうかしら? 現実世界にある既存の推進機関の応用に過ぎないという話もあるわ」

「どちらも凄い秘密主義ですからね」

「ええ」

 クレアが同意すると、眼鏡の少女も首を縦に振った。そこで二人の会話を聞いていた麗奈が口を開く。

「すみません。誰かRKG-3を運ぶのを手伝っていだけませんか?」

「見附さん。RKG-3って何なんですか?」

 ポニーテールの頼みに、志光は思わず質問で返した。彼女はしまったという顔つきになると、慌てて名称の意味を説明してくれる。

「ごめんなさい! 馴染みの無い名前ですよね。魔界でよく使われる手榴弾てりゅうだんのことなんです。本当は戦車を攻撃するために作った武器なので、悪魔や魔物にぶつけてもそれなりの効果が見込めるんですよ」

「手榴弾って、安全ピンを抜いて相手に投げると爆発するヤツだよね?」

「そうです。実物を見に行きませんか? 隣の武器庫にありますよ」

「分かった」

 志光が同意すると、麗奈は彼を連れてゲートを設置した鏡張りの部屋を出た。武器庫は部屋と隣接しているので到着に五秒もかからない。

 重要拠点を守るための武器が保管されている場所は、まるで素っ気が無かった。床にはクレアが使っていたラハティという対戦車ライフルが何丁か転がっており、その脇には槍として用いるバーベルシャフトが置いてある。どちらも非常に重いので、立てかけておくのが難しいのだろう。

 RKG-3はラハティの弾丸が入ったアモカンと一緒に、棚の方に置かれてあった。ダンボール箱から出てきたそれは、缶ジュースの缶の底部に握りをつけたような格好をしていた。頭と同じぐらいの全長で、手榴弾と呼ぶには大きすぎる。

「この真ん中にあるピンを抜いて投げます。当たると爆発します。元の武器は後ろに落下傘が付いているんですけど、私達は外して使っています。その方が遠くまで投げられるんです」

 極めてシンプルな説明を志光にした麗奈は、ダンボール箱に対戦車手榴弾をしまい直す。よく見ると、ダンボールの表面にはエナジードリンクの名前が印字されていた。恐らく偽装のためだろう。

「手伝うよ」

 立てかけてあった折りたたみ式台車を麗奈が開くと、志光はダンボールに入ったRKG-3をその上に置いた。

「ありがとうございます」

 箱が五つほど積み上がると、ポニーテールの少女は礼を述べて台車を押し始める。二人は後からやって来たクレアと茜、それにウニカを加えてトイレとシャワールームにつながる廊下を歩き、仮眠室を抜けて監視室に到達した。

 監視室には見附の配下の少女が数人と大蔵の姿があった。少女達は志光の姿を見ると、少し顔を赤らめて頭を下げてくる。

 志光は無言で礼をしつつ、心中で呻き声を上げた。

 彼女達を見た記憶がある。麗奈と同じように、ベッドルームで自分が麻衣達に何をされたかを間近で見ていた連中だ。

 ……魔界には、記憶を消去する魔法が存在しないのだろうか? 何なら自分の記憶が消える方でも良い。

「大蔵さん。クレアさんから言われたんですけど、千葉のゲートから対戦車ライフルを積んだ軽トラを護衛用に出して貰うことは可能なんですか?」

 志光が煩悶している傍らで、麗奈は大蔵にクレアの意向を伝えていた。ヨレヨレのスーツを着た中年男は、にやっと笑ってスマートフォンを見せる。

「クレアさんとは気が合いそうだな。さっき、車の手配をする時に護衛を頼んでおいたよ。君の言うとおり、対戦車ライフルを乗せた軽トラだ」

「さすが!」

「ただ、千葉のゲートから車が届くまで一時間以上かかる。その間に食事にでも行こう」

 大蔵の提案を聞いた志光は目を丸くした。

 魔界にいた時も、大塚のゲートが敵から監視されているという話はしていたはずだ。それなのに、食事に出たいというのはどういう神経なのだろう? 昼食をとっている最中に襲撃されたらどうするつもりなのか?

「良いわね。そうしましょうか」

 ところが、クレアは中年男の提案に易々と乗った。

「いいですね。どこに行きますか?」

 麗奈も二人に同調する。

 志光と茜はお互いに顔を見合わせた。少年が目配せすると、眼鏡の少女が大蔵に問いかける。

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