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8-1.朝チュン・その2

 ガラス張りの浴室から眺める寝室は壮観だった。大きなベッドの上に全裸の女性が何人も転がっている。

 虚ろな面持ちで浴槽に浸かった地頭方志光は、両手で湯をすくって顔にかけた。

 この水は、現実世界で使っていた水道水と味が違う。そういえば、美作はこの世界の水が発電の副産物だと言っていた。一体、どんな仕組みで水を作っているのだろう?

 そこで志光がふっと気を抜くと、彼の脳裏に昨晩までのご乱行が蘇った。

 三日前も凄かったが一昨日と昨日も凄かった。まさか二人がかりや三人がかりであんなことやこんなことをやられ続けていると、アレがアレになって失神するとは思ってもみなかった。

 確かに、自分はもう童貞の頃のような気持ちに戻ることは無いだろう……死にたい。

 浴槽に頭まで沈めて身体を丸めた志光は、十数秒ぐらいその姿勢を維持してから立ち上がった。浴室を出た少年は、出入り口の脇に置いてあったバスタオルで身体を拭う。

 室内は甘い体臭で満たされていた。倒れている全裸の女性の中には、高いびきをかいている者もいる。

 バスタオルを腰に巻いた志光は、邪素をとりに冷蔵庫に向かった。その道程の途中にあるソファには、既に門真麻衣が腰をかけていた。

 全裸の女性は珍しく邪素入りのペットボトルを手にしていた。彼女は志光と目を合わせると、軽く会釈をする。

「お早う」

「お早うございます。珍しくお酒じゃないですね」

「嫌味かい?」

「まさか」

 少年は年上の女性の発言を軽く受け流し、冷蔵庫の扉を開けて中からペットボトルを取り出した。麻衣は嬉しそうな笑みを浮かべると、ソファの座面を叩いて彼を呼び寄せる。

「なんですか?」

「隣に座りなよ」

「はい」

 志光は赤毛の女性の隣に座る前に、彼女の裸身を盗み見した。さすが元アスリートだけあって綺麗だ。身体に無駄な脂肪がついていないし、手脚も長い。

「ん? どうした?」

「いや、身体が綺麗だなと思って」

「ようやくお世辞が言えるだけの心の余裕が出来たのかい?」

「昨日だけで、女性の裸はお腹いっぱいになるぐらい見ましたからね」

「慣れは大事だね。ボクシングでもセック×でも」

「否定はしません」

「新棟梁になる頃までに、キミをそれなりの〝男〟にするつもりだよ」

「男性性ってそんなに大事ですか?」

「異性愛の女性に言うことを聞かせたかったら大事だね。キミだって、女性らしい女性に性的な魅力を感じるだろう? その性別が裏返ったと思えば良いんだよ」

「確かに……」

 少年が得心している間に、麻衣はペットボトルに入っていた邪素を口に含むと彼のおとがいを掴んで唇を塞いだ。赤毛の女性は志光に口移しで邪素を飲ませると、彼の頬にキスをする。

「一応言っておくけど、これからは当分オナ禁だからね。催してきたら、アタシかクレアか警備担当の誰かを呼ぶんだ。言うのが恥ずかしいなら、ジェスチャーするだけでも良い。それでキミが慣れてきたら、処女組にも手を出しなよ。身内固めには、そういう手管も必要な時がある」

「昨日も避妊具を使っていないんですけど、妊娠は……」

「心配しなくていい。処理する方法がある」

「はあ……」

「もしかして、孕ませ趣味でもあるのかい?」

「いや、ないです。ただ、心配だったので……」

「ありがとう」

 麻衣が珍しく少年に礼を言っていると、寝室のドアがノックされた。赤毛の女性はしまったという面持ちになり、志光に事情を説明する。

「昨日は楽しくて事情を説明するのをすっかり忘れていたけど、今からキミは大蔵と現実世界に戻って挨拶回りをする予定だったんだ」

「早く言って下さいよ! それに、ドアを叩いているのが大蔵さんだってことは、あの人もこの部屋の合鍵を持っているってことですか?」

「ここの幹部は全員が持ってるね」

「誰が来るのか分からないような場所で、安眠なんて絶対に無理なんですけど」

「じゃあ、キミが幹部連の部屋を回って話を聞くようにするかい? キミが棟梁になれば、嫌でも幹部連と週に何回も打ち合わせをせざるを得ないんだよ」

「それは……」

 少年が言い淀んでいる内に寝室の扉が開き、大きなボストンバッグを持った大蔵が現れた。中年男は室内の惨状を目の当たりにしても眉一つ動かさず、志光の前にバッグを置く。

「お早うございます。門真から話は聞いてますか?」

「お早うございます。たった今、聞きました」

「それでは、さっそくですが外出用の服に着替えて下さい。衣裳は美作が用意しました」

 少年がバッグのジッパーを引くと、中からボクサーパンツ、ソックス、カーキ色のポロシャツ、黒のスキニーパンツ、同じく黒のスニーカー、そして現実世界から自分が持ってきたえんじ色のリュックサックが現れた。彼は無言で下着、靴下、スキニーパンツ、ポロシャツの順番に衣裳を身につけ、最後にスニーカーに足を通して靴紐を結ぶ。

 志光が着替えをしている間に、麻衣と大蔵は今後のスケジュールに関して話し合っていた。

「確認だけど、今日行くのは本部だよね?」

「ええ、そうですよ」

「ゲートはどこを使う? 千葉?」

「それが理想ですけど、他の悪魔にも確実に見られますよ。それでもいいですか?」

「避けたいね。最低でも九週間は隠しておきたい」

「だとしたら、大塚のゲートを使うしかないでしょう」

「大塚はホワイトプライドユニオンに監視されているはずだ」

「どちらのリスクが高いかは貴方が判断して下さい」

「難しいな。志光君が魔界に来てから二日……」

「三日ですね」

「嘘?」

「俺が予定を入れたのが一昨日だから間違いないです。皆さん、寝ずに二日間も乳繰り合ってましたよ」

「ヤバいな。志光君の練習が一日分遅れてるじゃないか」

「ヤバいのは貴方の頭ですよ。普通、そこまでセ×クスに固執しますか? それで、ゲートはどっちを使うつもりですか?」

「WPUに襲撃される危険はあるけど、やっぱり大塚が良いね。自衛用の武器は運べるのかい?」

「オフロード車で移動する予定なので、対戦車ライフルを運ぶのは難しいですね。一応、防弾装甲は張ってますが……」

「それはマズいね。他に同行するのは?」

「クレアさんは一緒に来るでしょう。後は過書町君に見附君ですね」

「足りないな。志光君に頼んで、ウニカも同行させるんだ」

「分かりました」

「RKG-3も積めるだけ積むように」

「分かりました。後は美作から志光君にプレゼントがあるそうです」

「ああ、アレだな。分かった。後で渡してあげてくれ」

「それで、貴方はどうするんですか?」

「アタシ? ここに残るよ。前回はクレアとアタシが現実世界に行っている間に、こっちが襲撃されたからね。今回も同じ手を使ってくるだろう」

「でしょうね……」

 少年は衣類を身につけつつ、二人の会話を盗み聞いた。

 本部とは一体何を指しているのだろう?

 RKG-3とは何のことだ?

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