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7-3.有色人種殺し

「これを組み立てる。重さはラハティの半分ほどだ」

「こいつらにライフルを組み立てる能力はあるのか?」

「何とか組み込んだ。銃の故障に対応できないと、銃も使い捨てにせざるを得なくなるのが嫌だったんだ」

「賢明な判断だな。全部俺が準備しなきゃいけないなら、今すぐ投げ出していたところだ」


 ジョゼッペはスーツの臀部にあるポケットから、スキットルを引っ張り出すと蓋を開け、中に入っていた邪素を飲んだ。


「すまない。一服させて貰うぞ。そろそろ二階にいる組長を助けに、子分共が来ても良い頃合いなんでな。首領はどうする?」

「知っての通り、私は荒事に慣れていない」

「そこが不思議なところだな。だったら、どうして白人至上主義運動に参加していたんだ? しかも、それがバレてユダ公の社長にクビを言い渡されたんだろう? 俺だったら、そいつをナイフで滅多刺しにしているな」

「私が白人至上主義運動に参加したのは、アメリカで多数派のはずの白人が、ポリティカルコレクトネスという形で表現の自由を封じられていたからだ。どうして有色人種が嫌いだと言ってはいけないんだ? 私の好き嫌いを表明する権利が無いのはおかしな話だ」

「首領。行動も表現の一種だぞ」

「今なら貴方の言いたいことは痛いほど解る。嫌いだと言っても通じないのだから、物理的に排除するしか無い」

「そういうことだ」


 金属製のスキットルを尻ポケットにしまい直したジョゼッペは、ジャケットを脱いで肩にかけると、ベルトに挟んだスチレットを再び手に取った。彼が柄のスイッチを押すと、折りたたまれていた長い刃が飛び出した。


 口ひげが息を止めて腹部に力を込めると、彼の全身から青いオーラが立ち上ってくる。ゲーリーもジョゼッペに倣って息を止め、邪素を消費して体力を増加させる。


「弾薬と銃を持って上に行け。キャリーケースがある部屋だ」


 スキンヘッドが命令すると、マネキンは無言で弾薬と大口径ライフルが入ったバッグを抱えて部屋から出て行った。そこに入れ違いでカニ男が現れると、幾つもある目の一つから壁に映像を投影する。


 そこには、強面の男性が二人映っていた。彼らは手に拳銃らしきものを持っている。


「あれは俺が売った銃だな」


 ジョゼッペは映像を見ながら苦笑した。ゲーリーは背景を一瞥すると目を丸くする。


「もう、この家の前まで来てるじゃないか。ひょっとすると、私はあの男たちと鉢合わせしたかもしれないのか?」

「運が良ければそうなっていたかもな」

「運が良ければ?」

「殺す練習が出来たじゃないか」


 口ひげの返答を聞いたゲーリーは肩をすくめた。ジョゼッペは笑いながらジャケットをカニ男に渡すと、スキンヘッドに部屋の隅を指す。


「カニと一緒にその辺にいてくれ」


 ゲーリーとカニ男が所定の位置につくと口ひげは肩幅に脚を開き、ナイフを持った右手と同じ側の右脚を前に出した。続いて彼は膝を曲げて腰を落とし、身体を正面から四十五度の角度に捻り、右手を背中に隠してしまう。


 ジョゼッペがフェンシングによく似た構えでナイフを握っていると、玄関の方から微かな物音がした。口ひげは一瞬だけ背後を振り返ってゲーリーと視線を交わし、ドアに向かってナイフの先端を向ける。


 しばらくするとドアノブが回り、ドアが微かに開いた。だが、僅かな隙間からでは、ジョゼッペの姿を見ることはかなわない。


 ドアはやがて完全に開き、二人の男が姿を現した。ラグビー選手のように分厚い胴体を着崩したスーツに包み、手に拳銃を持った男たちはジョゼッペの姿に気づくと怒声を上げるが、やはり日本語なので何を言っているのかは解らない。


 彼らは銃をジョゼッペの身体に向けた。


 その刹那、口ひげが大きく前足を踏み出した。彼は後ろ足を前足に引きつけつつ、拳銃を持った男の一人に向かってナイフを突き出す。


 驚いた男は背中を仰け反らせ、顔を刃先から遠ざけようとした。しかしジョゼッペは伸ばした腕を下ろし、拳銃を持った男の手を切りつけた。


 大量の血液が、男の手首から噴出した。彼はわめきながら拳銃の引き金を引くが、邪素を消費して身体能力を大幅に上げた悪魔に、その程度の攻撃は通じない。


 ジョゼッペは人間の攻撃などまるで気にする様子も無く、再び跳ね上げたナイフで男の首を切った。傷口から血が噴水のように溢れて放物線を描く。


 二カ所から同時に出血した男はみるみる動きが鈍くなった。口ひげは失血性のショックを起こした男を放置すると、二人目の男に斬りかかる。


 二人目の男は怯えた顔つきで後ろに下がろうとした。だが、ジョゼッペは大きく前に足を踏み出し、逃げようとする男の胸にスチレットを突き刺した。


 心臓に致命的な一打を受けた二人目の男は、仰向けに引っ繰り返ると痙攣し始めた。ジョゼッペはその隙に一人目の男の首に再度刻み目を入れて失血死させる。


 口ひげが着ていた白いスーツは、返り血で赤く染まっていた。彼は悪鬼のような笑みを浮かべつつ、血のついたナイフの切っ先で殺したばかりの男たちを指す。


「奥の部屋に運んで解体しろ」


 ジョゼッペに命じられたカニ男は二つの死体に近づくと、両腕に担ぎ上げて廊下に続く扉をくぐって姿を消した。殺害の一部始終を黙ってみていたゲーリーは小さく何度も頷いてから、口ひげに労いの言葉をかける。


「さすがだ。貴方が悪魔化していなかったとしても、あの二人が勝てる確率は限りなく低かっただろう」

「褒めてくれるのか? 嬉しいね。クレアが連れてきた日本人ジャップの糞ガキも同じ目に遭わせてやる。同族殺しの女もな」


 口ひげは笑いながらポケットからウエスを取り出しナイフの刃についた汚れを拭き取ると、血まみれの床にそれを投げ捨てた。

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