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7-2.スチレットのジョゼッペ

「悪かった。もう二度と、警察の話は口にしない」

「解ってくれれば良いんだ。この日本でだって、サツは敵だ。今のところ、黄色イエロー好きの白人にブツを捌かせているのが上手くいっているが、奴らが一人でも捕まったら、鎖を引っ張るように俺のところまで辿り着くだろう」

「もしも警察がここに踏み込んできたら?」

「ここの住人と一緒だ。これで始末するだけさ」


 ジョゼッペはそう言って笑うと、ベルトから長い柄を持つ折りたたみナイフを引っ張り出した。編みスチレットと呼ばれる武器だ。悪魔も殺害できるように、ブラックマテリアルで作られている。


 悪魔になる前のジョゼッペは、組織から殺害命令が下された人間を、同じようなナイフで切り刻んでいたと聞いている。また、悪魔になってから素行が良くなったという話は聞いていない。むしろ、邪素を消費すれば人間の十倍以上の力を出せるので、被害者の数は増えているはずだ。


 もっとも彼が何人殺そうが、被害者が色つき(カラード)である限り、微塵も同情する気持ちにはなれない。色つきが好きな白人もだ。


「そういえば、この屋敷の持ち主は? 確か、彼だけは生かしていると聞いただが?」

「旭拝会の組長カポか? まだ生きてるぞ」


 ナイフをしまったジョゼッペは冷たい笑みを浮かべると、二階にある三つ目の部屋にゲーリーを案内した。そこも二つめの部屋と同じように和室で、中には老齢の男性が畳の上に転がっていた。


 全裸の男性は両手を異形鉄筋を曲げて作った簡易の手錠で背中側に拘束されていた。両脚は反対側に折れている。


 老人の顔色は真っ青で生気が無い。恐らくまともに食事もとらせて貰っていないのだろう。


 ジョゼッペの姿を認めた〝元〟組長は、かすれた声で何かを呟いたが、日本語なので意味は分からない。口ひげは頭を振ると、老人の顔を革靴の先で蹴り飛ばす。


「英語で喋れって言ってんだろう! この黄色い猿が!」


 全裸の組長は横転し、部屋の壁に激突した。ゲーリーは痙攣を始めた老人を冷たい視線で見下ろしつつ、ジョゼッペに問いかける。


「この男を生かしておく理由は?」

「憂さ晴らしだ。コイツが生きている限り、子分共は助けにこざるを得ないからな。定期的に助けを求める電話をかけさせている。生き残るチャンスをくれてやってるのさ。さっきも電話機を持たせてやった。俺って良いヤツだろ?」

「貴方にだいぶ逆らったと聞いているが?」

「ああ。この屋敷を出て行けと行ったら、何か大声で喚いていたぜ。日本語だったから、内容は全く解らなかったがな。その場にいた子分共を全員刺し殺してから、女房と愛人の首を引っこ抜いたら、ようやく大人しくなった。最初から家屋敷も込みで縄張りを全部俺に渡しておけば良かったんだ」

「死体は?」

「カニ男に切り刻ませて、トイレで流した。一応、写真は撮っておいたんだが見るか?」

「いや、結構。貴方の腕前は知っている」

「評価してくれるのは嬉しいが、今から話をするのは失敗した件だ」

「貴方が失敗を?」

「ああ。だから直接話がしたかったんだ。首領カポの情報を元にユダジューを発見したんだが、まんまと逃げおおせられた」

「クレア・バーンスタインか?」

「そうだ。あちらのゲートが池袋の隣にある事までは判った。オーツカという場所だ。ただ、ゲートを攻略しようとして送り込んだカニ男を十体以上やられた」

「幾ら弱いとは言え、カニ男十体でクレア一人を倒せないというのは解せないな」

「あの女だけじゃない。別の女がいた。恐らく日本人ジャップだ。カニ男たちが送ってきた映像で解った。かなり運動神経は良かったな」

「だとしたら、マイ・カドマの可能性が高い」

「マイ? 魔界日本の副棟梁か?」

「ああ。〝同族殺しのマイ〟というあだ名のある悪魔だ」

「ほお……」

「貴方のプライドを傷つけるかも知れないが気をつけてくれ。噂によると、彼女はイチローの命令に従って、同族の悪魔を十人以上殺害しているそうだ。人間じゃ無い。同じ力を持った悪魔だ」

「そいつは穏やかじゃ無い話だ。人間を殺すならともかく、同族かよ。女だと思ってなめてかかると、とんだしっぺ返しを喰らいそうだ」

「十分に気をつけてくれ。ただ、クレアにそんな凄腕がついているなら、彼女の目的も相当重要だと考えて良いだろう」

「そのことなんだが、あのユダヤ女は駅で黄色のガキをピックアップしていたぞ。ひょっとすると、行方不明になったイチローの跡取りか親族じゃないのか? アソシエーションに所属するクレアが、わざわざ会って話をする相手と言えば、それぐらいしか思いつかない。まあ、俺の勘にしか過ぎないがね」


 ジョゼッペの報告を聞き終えたゲーリーは、顔をしかめて黙考に入った。


 口ひげの見立てが正しいのだとしたら、自分達にとって厄介な事態になった。新棟梁候補がイチローの幹部に承認されれば、今の魔界日本が抱えている問題の多くは自然鎮火してしまうだろう。


 自分が棟梁を務めるホワイトプライドユニオンは、魔界日本に比べれば規模がずっと小さい。正面から戦って勝てる相手ではないのだ。


 つまり、事態を打開する方法は一つだけ。暗殺だろう。


「その黄色いおガキ様は、今どこにいるんだ?」

「オーツカのゲートは常時監視しているが、クレアもガキも出てこない。魔界に行ったんだろう」

「そのガキも悪魔化したか、あるいは最初から悪魔だったかのいずれかだと?」

「俺はそう思っている」

「分かった。貴方の勘を尊重する。だとしたら、計画を変更しよう。その日本人ジャップの子供を優先的に殺して欲しい」

「クレアよりも優先するのか?」

「そうだ。そちらの方が、我々にとって脅威だ。こちらの計画が軌道に乗るまで、魔界日本の新棟梁就任は阻止したい」

「なるほど。そういうことか」


 ゲーリーの説明にジョゼッペが納得していると、マネキンのような白人男性が二人の前に立った。スキンヘッドはマネキン肩を叩き、口ひげに紹介をする。


「魔界でも見せていると思うが、新しい魔物だ。カニ男と違って銃器の操作ができる」

「そうなると、銃と弾丸が必要だな」

「南アフリカの賛同者から、NTW-20を大量に購入した。二十ミリの対物ライフルだ。装弾数は三発しかないが、それでも攻撃力は大幅に上昇するはずだ」

「三発か……厳しいな。確か敵が使っているのはラハティだよな?」

「そうだ。ラハティのコピーを自主生産している。装弾数は十発だ」

「こちらの数が多くなければ襲撃は無理だ。最低でも二倍は欲しい」

「銃も魔物も最優先で揃える。今日も少数だが車に積んできた」

「実物を見せて貰おう」


 二人と一体は組長を監禁している部屋を出ると、階段を降りて玄関近くにある洋室に入る。大型のベッドが壁に立てかけられている部屋には、マネキンが運び込んだとおぼしくアモカンとナイロン製の黒い大型のバッグが二つ置いてあった。


 ゲーリーは袋を開け、中から分解された対戦車ライフルを引っ張り出した。

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