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37-5.作戦決行

「で、奴は死んだのかい?」

「多分。僕たちの先頭にいて、下から攻撃された。三〇ミリ機関砲の攻撃にも耐える板が敷いてあると説明されていたんだけど……」

「無反動砲を使っていないのであれば、三〇ミリ以上の砲火で撃たれたんだろうね。音で判断出来るはずだけど?」

「連続した射撃音が聞こえたから、無反動砲じゃ無いと思う」

「だとしたら、四〇ミリ機関砲の可能性が高いね」


 熊のような体格をした女性はクレアに視線を向ける。


「大将の話を聞く限り、霧を吹っ飛ばすぐらいじゃ済まなさそうだ」

「それもそうだけど、どうやって繋がっていない通路から不意打ちを仕掛けられたのかが知りたいわ。池袋のゲートはフォグマシンのせいで視界が遮られているんでしょう?」

「多分、コンクリートマイクのようなものよ。私が〝蝿〟をあちらに飛ばそうとしたら、穴で何かに引っかかったのよ。それで危険を察知したんだけど、彼は助けられなかったわ」


 クレアの疑問に回答したのはソレルだった。それを聞いた背の高い白人女性は十数秒ほど黙って思案する。


「こちらの予想と違っていたのは銃火器の威力だけね。作戦は変更せずに実行しましょう」


 クレアの断言に気圧された志光は思わず頷いた。


「分かりました。作戦を実行しましょう」


 白人女性は背後を振り返り、麗奈と彼女の部下たちに移動再開を告げると前進を開始する。


 今度は一〇倍ほどまで膨れあがった一同は、やがて志光が座間と最後に言葉を交わした場所に到着した。すると、すかさず麗奈が部下たちを五~六人ずつに分け、通路の奥に下がらせていく。


「ハニー。これを見て」


 ポニーテールが突撃のための準備を整えている間に、クレアは坑道の床にラブホテルの洗面器を置いた。その中には、真っ赤な油粘土のような物体が凹型に形を整えられて詰まっている。


「これが指向性の地雷ですか?」


 志光が洗面器を指差すと、クレアは嬉しそうに同意する。


「セムテックスというプラスティック爆弾を詰めてあるの。形を凹にしてあるのは、中華鍋やパラボラアンテナと一緒で、爆発で生じたエネルギーを一点に集中させる狙いがあるからよ」

「美作さんからセムテックスの話は聞いたことがあります。魔界日本で製造している武器の一つですよね?」

「ええ。古いタイプの爆発物だから、最新の製造工場で無くても作れるわ。それに、現実世界で生産してるものは、爆発物かどうかを判断する目的で、マーカーと呼ばれる特殊な物質を混ぜているのだけれど、魔界製にはそれがないわ。だから、ほとんどの人間にはただの色粘土にしか見えないのよ」

「つまり、テロに最適と」

「悪魔ですもの。当然でしょう? ねえ、麻衣」


 洗面器を拾い上げたクレアは、そう言うと麻衣に話を振った。赤毛の女性は何故か新しい酒瓶を片手に抱えた状態で、背の高い白人女性に返答する。


「ああ、アタシたちらしい武器だ。ただ、今からそれを使うなら工夫が必要だ。相手はマーカーをチェックしているわけじゃない。ソレルの話が正しいなら、音を聞いているらしい」

「つまり、この洗面器を相手に向けて爆発させる前に、私の方が撃たれる危険があるということかしら?」

「そういうことだ。安全を考えれば、洗面器をそのまま使うわけにはいかないし、そいつを爆発させる前に音を消しておく必要もある」

「方法は一つね。洗面器を相手に向けて爆発させるまでに出る音よりも、大きな音を出せば良いのよ。たとえば、手榴弾を爆発させるとか」


 麻衣とクレアの会話にソレルが割り込んだ。赤毛の女性は頷いて、褐色の肌に助力を頼む。


「それがいい。ソレルなら手榴弾の扱いもお手の物だろう。頼めるか?」

「もちろんよ。敵が機関砲を撃ったお陰で、こちらの坑道とゲートへ続く通路の間に大きな穴が開いているわ。そこから爆発物を投げ込むという方法でどうかしら?」

「それで良い。集音器を使っているなら、その爆発音がこちらを待ち構えている奴らのダメージになるだろう。それが上手くいって指向性地雷を爆発させたら、次はウニカが突入して機関砲の砲手を殺すか、もしも遠隔操作であれば遠隔操作用のシステムを破壊する。問題はそこからだ」

「問題、というのは?」


 続いて志光が会話に参加する。


「まずは床に刺さった鉄パイプだ。それがどこまで続いているのかは不明だが、狭いトンネルの中で味方をまとまった状態で行動させるためには、パイプを抜くか何らかの方法で無害化しないと難しい」

「力仕事なら、私か大将の彼女だろう」


 五人目に名乗りを上げたのは大工沢だった。彼女の発言にヘンリエットが反応する。


「私も是非お手伝いさせて下さい」

「じゃあ、それは二人に頼む。もう一つは照明だ。相手がソレルの偵察能力を削ごうとして、通路の中を真っ暗にしている以上、こちらは撃たれる覚悟で照明を持って行くしかない。麗奈。例のライトは全員持って来ているな?」

「IMALENT社のLEDライトのことですか? もちろんです」


 戦闘員の配置を終えた麗奈が上司に即答した。


「OK。その中の一つをウニカに渡せ。アタシはRofisのヘッドが回転するヤツを使う」


 麻衣はそう言うと、ハンディタイプの細長いLEDライトを部下に見せる。


「大丈夫ですか? 正式に採用したヤツに比べると暗めですけど」

「銃で撃ち合うつもりは無いから、光量はこの程度で十分だろう。それよりも大事なのは……」


 麻衣はそこでハンディライトの先端部分を半回転させ、L字型に変形させる。続いて彼女は、ライトの胴体についている金具を服の前面に引っかけた。


「……こうやって取り付けられることだな」

「良いですね。それ、次から私たちも使って良いですか?」

「予算が出るかどうかは棟梁に訊いてくれ」

「もちろん、この戦争が終わったら出すよ」


 志光が購入に太鼓判を押すと、麗奈は嬉しそうに礼を述べる。


「ありがとうございます!」

「お礼は良いよ」

「後は制圧後の照明設置も考えないとまずいな」

「それは私たちの役目だ。任せてくれ」


 麻衣の言葉に反応したのは大工沢だった。


「頼む」


 赤毛の女性は短く返答すると、最後に志光に顔を向ける。

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