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30-3.敵が来る理由

「ようこそ皆さん。遅れて申し訳ない」

「お久しぶりね」


 ミス・グローリアスが手を上げて少年を歓迎した。


「どうだい? ボクシングの練習は続けてるかい?」


 ゴールドマンもウィンクで挨拶してくれる。


「お陰様で。でも、まだまだです」


 志光が頭を下げると、強姦魔は笑って席を勧めてくる。


「まあ、座りなよ」

「それで、話はどうなっているんですか?」

「彼らがホワイトプライドユニオンの次の襲撃先を感知したところまでは話したわよね?」

「覚えています。そこで待ち伏せするという計画も聞きました」


 クレアの解説を聞きながら、少年は席に腰を下ろした。彼は周囲を見回してから疑問を口にする。


「来たばかりでなんですけど、質問をしても良いですか?」

「何かしら?」

「ホワイトプライドユニオンが襲撃するだろうと予想されるギャングを僕達が先に襲うところまでは分かるんですけど、そこにのこのこ敵が現れる可能性はどれぐらいあるんですか?」

「高確率だ」


 不敵な笑みを浮かべたゴールドマンが少年の質問に即答した。


「根拠は?」

「魔界日本がアメリカまで出張して、ホワイトプライドユニオンの資金源を襲撃する、という噂話を魔界に広めている最中だからだ」

「……なるほど!」


 強姦魔の説明を聞いた志光は驚きの声を上げた。確かに、それなら敵は反撃をせざるを得ない。そうしなければ、魔界における彼らの地位が一層低下してしまうからだ。


 魔界には国連のような組織は無い。自衛もできない弱い組織だと思われたら、別の組織がその利権を奪いに来る。


 同盟を結んでいなければ、他の組織が助けてくれることも無い。強奪は組織が消滅するまで続くだろう。


 そうならないためには、敵に痛手を与える必要がある。だから、魔界日本がアメリカの麻薬組織のアジトを襲うという噂話が出たら、WPUは何としてもそれを阻止せざるを得ないわけだ。


「理解したかい?」

「しました。凄い悪知恵だ」

「悪魔だからな」


 ゴールドマンはそう言うと白い歯を見せた。志光もつられて笑い出す。


「それで、魔界日本としては何をすれば良いんですか?」

「したくなければ何もしなくて良い。大事なのは、魔界日本がホワイトプライドユニオンを襲撃するという建前で、これがなければ敵が反撃に出てくる事は無いだろう。つまり、魔界日本の名前を俺達に貸してくれってことさ」

「分かります」

「ただし、この襲撃で得られた利益は全て俺達のモノだ」

「それも聞きました。その条件で問題ありません。でも、それならホワイトプライドユニオンと、わざわざケンカする理由が無いような気がするんですが。人間を相手にしているだけの方が、ずっとリスクは低くないですか?」

「君の言うとおりだ。人間だけ相手にしていた方が楽だろうな」

「それでは、別の理由があるんですか?」

「ある」


 真顔になったゴールドマンは少年に顔を近づけた。


「俺たちが男性同性愛者を中心とした組織なのは知ってるな?」

「もちろん」

「俺はその組織のトップとして、男性同性愛者を馬鹿にする連中を野放しにしておけない。俺の権威が傷つくからだ」

「ホワイトプライドユニオンは、その〝男性同性愛者を馬鹿にする組織〟なんですね?」

「その通り。どうして男性同性愛者が差別されるか知ってるな?」

「正確には知りません」

「聖書のレビ記一八章二二、〝あなたは女と寝るように男と寝てはならない。これは憎むべきことである。〟が根拠だ。ちなみに、罰則は二十章一三〝女と寝るように男と寝る者は、ふたりとも憎むべき事をしたので、必ず殺されなければならない。その血は彼らに帰するであろう。 〟とある。まあ、なんだ。人間なら、こういうのを信じていても見逃す。幾ら殺していてもキリが無いし、そもそも邪素を生み出す源を殺しまくったら同じ悪魔から睨まれるからな。でも、相手が悪魔なら話は別だ。もう人間じゃ無いのに、まだ人間だった時の道徳に縛られるなんておかしな話だぜ」

「それは僕もそう思いました」

「だよな。それを放っておいたら、俺の名がすたる。〝ゴールドマンは普段から色々と偉そうなことを言っているくせに、男性同性愛嫌悪ゲオフォビアの一人も殺ってこない腰抜けか〟ってな。そこに、君だ」

「今の話と僕に、どんな関係があるんですか?」

「あるさ。君はWPUの本拠地に乗り込んで、奴らをぶっ殺して帰ってきた。そして、その様子を撮影してばらまいた。それに対して俺は? 俺は何をやった? 何もしていない! コレはマズいんだよ。解るかい?」

「解ります」

「解ってくれて嬉しいよ。それで、君の返事は?」

「僕も参加させて下さい」

「……マジかよ」


 志光の返答にゴールドマンは目を丸くした。彼はミス・グローリアスの座っている場所に顔を向ける。


「聞いたか?」

「聞いたわよ。参加したいって言っていたわ」

「ここに座っているだけで、俺が敵をぶっ殺してくるって言ってるのに、わざわざアメリカまで来るってさ!」

「いちいち驚くことなの? クレアの予想していた通りじゃない」

「俺も大概だが、この坊やも相当いかれてる」

「だから魔界で棟梁をやっているんじゃないの?」

「だな!」


 ゴールドマンは嬉しそうに頬を緩め、志光に向き直った。


「よし。じゃあ、一緒にアメリカに来いよ。パスポートは要らないぜ。俺達は日本にもゲートを持ってるからな」

「そういえば、そんな話を聞いたような……」

「新宿二丁目です。同盟国の情報ぐらい、少しは覚えて下さい」


 こめかみに指を当てた少年を、茜が冷たい声で戒めた。彼女の視線は勾玉がついたブレスレットに注がれている。


「すみません」


 志光は決まり悪そうな顔つきで、眼鏡の少女に謝った。この棘のある言い方と、見ている場所からして、彼女が親友である麗奈のことを想像しているのは間違いないだろう。


 そして、普段のように嫌味を言ってこないのは〝キャンプな奴ら〟のメンバーがいるからだ。それが、余計に過書町茜との関係を面倒臭いものにしている。しかし、彼女が考えているように、今は罵り合いをする状況にはない。


 志光は目線でクレアに合図した。背の高い白人女性は、少年の意を汲んで口を開く。


「では、地頭方志光氏がウィリアム・ゴールドマン氏が指揮する作戦に参加する、ということでよろしいですか?」

「異議無しね」


 ミス・グローリアスはそう言うと足を組んだ。


「それで、魔界日本からは志光君の他に誰が行くんだ?」

「こちらが大人数で押しかけたら、〝キャンプな奴ら〟の作戦では無くなってしまうのではないのかしら?」

「その通り。できれば少人数で来て欲しいね」

「では、地頭方志光氏と翻訳担当で過書町茜氏、それに私でいかがかしら?」

「え? 私もですか? 戦闘は苦手なんですけど……」


 クレアの提案に茜が目を剥いた。彼女は許しを請うように志光に顔を向けるが、少年はゆっくり首を振る。


「過書町さん。今回はつき合って貰う。僕は英語に自信が無い」

「スマホの翻訳ソフトを紹介します。今回はそれでどうですか?」

「そのソフトが使えることが判ったら、君はクビだ」

「……同行します」


 今度は茜が謝罪する番だった。志光はゴールドマンに向かって片手を出す。


「この三人で参加します。よろしいですか?」

「もちろんだ。すぐに出立の準備をしてくれ。そうだな。三泊四日ぐらいのつもりでいてくれると助かる」


 ゴールドマンは椅子から立ち上がると少年の手を強く握った。

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