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29-5.幸せな嘘

「それで、私とお母さんが何年も悩んでいたことが、たった二日で解決しちゃったんです。おまけに、お母さんの再就職先も教組の経営している会社で……」

「解った。『くすりの信川』でしょ?」

「そうです! よく解りましたね。それからは、お母さんは真道ディルヴェの熱心な信者になって、布教活動にも率先的に加わっていました。私は留守番が多くて、よく信者の子同士で遊んでましたね。いわゆるカルトの子になるのかなあ?」

「あの、僕が言うのもなんだけど、それはそれで問題があるような……」

「ないですよ! だって、一郎さんに助けられなかったら、私はお母さんと無理心中していたかもしれないんですよ。棟梁は、どっちが幸せだと思います?」

「まあ、そりゃあ、死ぬよりはずっと良いとは思う。思います」

「ですよね? だから私も〝稀人〟になる試験があると聞いた時は、自分から参加しましたし、無事に悪魔化できた時は凄く嬉しかったです。母にも喜んで貰えました」

「あの、それで質問が一つあるんだけど」

「何でしょうか?」

「〝稀人〟の正体は悪魔だよね。だから、超人的な力を持った存在がいるのは事実だとしても、真道ディルヴェの教義は正しくないわけじゃないか。見附さんは、悪魔化した時にその事実を知ったはずだろう? それまで嘘をつかれていたのに、怒る気にはならなかったの?」


 志光の質問を聞いた麗奈は、屈託のない笑みを浮かべて即答した。


「私は別に。私にとって大事なのは、それが嘘か本当かではなくて、私や母さんが幸せか、幸せじゃないか、ですから。嘘をつかれても幸せにしてくれるのであれば、そっちの方を選びます。ただ、そうじゃ無い人がいるのも知っていますけど」


 ポニーテールの含みのある言葉に、志光は視線を斜め上に向ける。


「解った。過書町さんのことでしょ?」

「ええ。茜の場合、両親が真道ディルヴェに入信したのは、彼女の病気が理由だから、その分だけ色々複雑な気持ちがあるみたいです」

「病気?」

「え? 知らないんですか? 茜は難治性の膠原病で、薬も効かなかったから神頼みで両親がディルヴェに入信したんです」

「膠原病ってアレルギーとか関係する病気だっけ?」

「ごめんなさい。私は医学に詳しくないので……」

「ああ、そうか。こっちこそごめん。それで、病気を治すために悪魔化にチャレンジしたら成功したんだね?」

「そうです。だから、茜は〝自分が難病じゃなかったら悪魔になる必要が無かった。ディルヴェに騙された〟って気持ちがどこかにあるんです」

「なるほどね」

「正直に言いますけど、茜がディルヴェの嘘を憎んでいて助かりました」

「どうして?」

「だって、茜が今の立場を喜んで受け入れていたら、たぶん棟梁の一番のお気に入りになったのは茜ですよね?」


 ポニーテールの少女はそう言うと、今まで見たことが無いくらい妖艶な顔つきで笑ってみせた。少年は思わず首を引く。


「それは……僕も考えたことがあるよ。割と趣味が近いんだよね」

「だと思った! だって、棟梁と話が一番合うのは茜だもの。あの子があんなに頑なじゃなければ、二人はとっくの昔にできていたっていうのが、親衛隊でよくされる話なんですよ」

「女の恋愛話、怖っ!」

「ちゃんと見てるでしょ?」

「嬉しくないけどね。でも、今までの話だと、まだ僕を選んだ答えになってないよね」

「実は、悪魔化した最初の頃は、私の初めての相手は一郎さんかなって思ってました」

「だと思った」

「でも、麻衣さんから戦闘訓練を受けて親衛隊に入って、そういう〝お手つき〟は無いって、みんなから言われたんです。あの人は、巨乳にしか興味が無いって」

「ああー」

「最初は冗談かなって思っていたんですけどホントでしたよ。ワンチャンあるかなと思っていた私が馬鹿でした。あの人、本当に女性を胸の大きさでしか判断してませんでしたね。顔とか性格とか、どうでも良いみたいで、今からよく考えると私とお母さんを助けてくれた信者の女性も巨乳だったんですよね。あれ、絶対、オッパイに目が眩んだんですよ」

「父さん、徹底してるな」

「でも、そのうち行方不明になっちゃって、一年経った段階で息子さんが来るって話になって、護衛として私が抜擢されたんです」

「その話は、麻衣さんからちらっと聞いたかも」

「それで、最初は〝どうなるのかな?〟って思っていたんですけど、棟梁はちゃんと麻衣さんの練習を嫌がらずについていったじゃないですか」

「だって、そうしなければ、タイソンと戦えないし、みんなからも棟梁だって認められないだろう?」

「でも、できない人はできないと思いますよ」

「それはそうだろうけど、麻衣さんは僕のことを考えて練習を組んでくれていたからね」

「それでも、ちゃんと結果は出ましたよね? あそこで〝この人はトップの地位でも他人から言われたことはちゃんとできるんだな〟って思いました」

「でも、それがイコールで恋愛……というわけじゃないけど、そういう気持ちと直結しているわけじゃないでしょ?」

「そうですね。最初は冗談で〝処女を貰って下さい〟って言っている部分はありました。本気になったのは、ホワイトプライドユニオンの本拠地に乗り込んだ時ですね」

「あー、あの時か」

「あの時、棟梁は麻衣さんとクレアさんと一緒に先頭で戦ったじゃないですか」

「そうだね」

「あの様子を見て、棟梁のことが本当に好きになりました」

「ああ。そうだったんだ」

「だって、あの百戦錬磨の麻衣さんについて行けるんですよ。私はあの人から訓練を受けたから、どれだけ凄い人なのかは判ってます。麻衣さんについて行ける人なら、私がついていっても良いと思ったんです。おかしいですか?」

「どうなんだろう? 僕の実力は、麻衣さんの1%もあるような気がしないけど……」

「河原での戦いの時だって、何匹も魔物を倒していたじゃないですか」

「まあ、そうだけどね」

「私は一番危ないところを自分から率先して選んでくれるタイプの人が好きです」

「そうか……」

「それで、棟梁はどうなんですか? 私のこと、どう思ってるんですか?」

「ど、どうって?」

「本妻はヘンリエットさんに決まっていて、一番目の妾がソレルさんなのも知ってます。クレアさんと麻衣さんは、ふたりともビーストなので性欲の赴くままにやっているだけのセフレですよね?」

「ま、まあ、そうかな?」

「その中で、私の立場ってどうなるんでしょうか?」

「うーん……」


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