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29-2.処女は下手

「元職業犯罪者ということは、今回の麻薬売買の仕組みを作ったのはこの人ですかね?」

「それは本人に訊かないと分からないわ。尋問でもする?」

「それで、彼らが作った日本国内の麻薬販売ルートを壊滅に追い込みますか?」

「でも、彼らのルートの大本は、池袋にあるゲートだから、ハニーが池袋ゲートを占領できれば大本を絶てるのよね」

「そうなんですよね。それに、こちらは一人取り逃していますから、襲撃されたという話は、とっくの昔にあちらさんにも伝わっているはずです。その段階で、密売ルートを変えるはずですよね」

「同感だわ。そう言えば、河川敷の戦闘は現実世界で問題になっているの?」

「もちろんなってますよ。人間の死傷者が出ていないので大事件にはなっていないですけど、人家が近い河原で対戦車ライフルをバカスカ撃ち合って、騒ぎになら無いはずがないじゃないですか」

「対策は?」

「今のところは何もできていません。戦闘は深夜行われたし、即効で撤退したから薬莢の回収もできなかった。警察じゃなくても、ちょっとあの周辺を探るだけで、20ミリ弾を撃っていた証拠を見つけられるでしょうね」

「見つからないのは、殺害された悪魔や魔物ぐらい?」

「だから、テロリストの予行演習だと誤認して貰えればラッキーだと思ってます。でも、そうなると交番に乗り込んで警官をスペシャルで滅茶苦茶にした配松さんとの整合性がとれないんですよ」

「ハニーは出しゃばらず、人間に状況を監視させるのが一番無難じゃないかしら?」

「真道ディルヴェの信者に情報を集めさせるんですか?」

「警察の捜査に介入させるのはリスクが高いわ。警察の紐付きになっている報道関係者と接触させるのも危険ね」

「じゃあ、信用できるライターに相談するのが良さそうですね。文覚さんとか」

「ハニーはそんなコネを作っていたの? やるじゃないの」

「僕の力じゃない。信川さんの紹介ですよ」

「謙遜しないの。でも、その判断を支持するわ。また話を元に戻しましょう。捕虜の件はどうするの?」

「ずっと考えているんですけど、相手との考え方があまりにも違いすぎて接点がないんですよね。そもそも、僕が人間のままなら、たぶん死ぬまで会わない人達ですし」

「人種論を真に受けている白人が、わざわざ日本まで来て有色人種のハニーと話をするとは思えないわね」

「でしょう? だから、捕虜と何かを交換するといっても、適当な対象が思いつかなくて……」

「生け捕りにしたのにと思うかも知れないけれど、交換が面倒臭いのであれば、改めて殺しても良いのよ。たぶん、あの男は暴力団殺害事件に関わっているわ」

「でしょうね」

「同じ日本人として、報復感情は湧かないの?」

「別に。僕は正義の味方じゃないし、捕まえた悪魔に日本人が殺されたとしても、僕の知り合いでなければ怒りも沸かないですよ」

「では、殺さない?」

「ですね」

「だとしたら、お金が一番でしょうね」

「ああ、確かに」

「その線でアソシエーションからホワイトプライドユニオンに話をしてみる? あの時の戦闘にかかった費用は回収できるかも知れないわよ」

「捕虜に支払われる身代金の相場ってどれぐらいなんですか?」

「ケースバイケースよ」

「一番聞きたくなかった答えだなあ」

「捕虜や人質は、外食チェーン店で発売されている定食やお弁当とはわけが違うのよ」

「身代金の金額に関しては、後で記田さんに戦闘にかかったお金を概算を出して貰うので、それを最低額として交渉していただけませんか?」

「もちろん良いわよ。この話は、ここまでで良いかしら?」

「良いですよ。その口ぶりだと、まだ何かありそうですね」

「ホワイトプライドユニオンが襲撃しそうな、麻薬の密売ルートを〝キャンプな奴ら〟のメンバーが発見したらしいの」

「へえ……ひょっとして、そこを僕達が占拠して、白誇連合の襲撃を待つんじゃないでしょうね?」

「そのひょっとしてを〝キャンプな奴ら〟を担当するアソシエーションのメンバーから提案されているわ。発案者はウィリアム・ゴールドマン氏よ」

「あのレフリーをやってくれた人かあ……いや、悪魔か」

「ゴールドマン氏の条件は、占領した人間のマフィアが持っている麻薬や金銭は、全て〝キャンプな奴ら〟のもので、その代償として魔界日本と敵対しているホワイトプライドユニオンの悪魔の殺害を手伝うそうよ」

「僕達が裏切られる可能性は?」

「ないわ。ホワイトプライドユニオンは、表立っては言っていないけれど、同性愛者も差別の対象としているわ」

「悪魔になっても某宗教の教義が抜け切れてないんですか?」

「抜け切れていないし、それはハニーも一緒でしょう?」

「僕は元々神仏習合だから、同性愛差別は無い……」


 志光がそこまで言いかけたところで、二階から女性達が大笑する声が聞こえてきた。天井を見上げたクレアが、肩をすくめる。


「あら。随分と楽しそうね」

「見附さんの処女卒業パーティーだそうです」

「お相手はハニーでしょ? 聞いたわよ」

「ヘンリエットとの結婚話の時もそうでしたけど、全然動じないんですね」

「ええ。私はハニーと別れるつもりはないし、現実世界の規範を守るつもりもないから当然ね。人数が増えても頑張るのはハニーだし」

「嫉妬はしないと?」

「妬いて欲しいの?」

「そうですけど、今は違うことで悩んでいるんですよ」

「あら。どんな悩みなのかしら?」

「そのですね……処女の扱い方を教えてください。何しろ、僕がつき合った女性は、皆さん相当な手練れなので」

「下手よ」

「え? 下手?」

「だから処女のことよ。セッ〇スが下手だって言っているの」

「まあ、経験が無いんだからそうでしょうね」

「私も最初は大変だったわ。何をしたら良いのか見当も付かないから、仰向けに寝っ転がって相手にされるがままになって……初体験の瞬間は痛いのなんのって! 唇の両側に指を突っ込んで横に引っ張られるような感じよ。それが終わって〝やっと大人になれた〟と思っても、脚の間には棒が挟まっているような感覚が抜けないのよ。それで、翌朝になってもがに股で……」

「クレアさん。僕はそういう生々しい処女喪失の話を聞きたいんじゃ無いんですよ! 興味はありますけどね。それよりも、どうやって童貞卒業八ヶ月の初心者が、経験無しの女性をリードすればいいのか、この不安で胸が張り裂けそうな気持ちを鎮めてくださいって言いたいんですよ!」


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