表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

136/228

28-3.奇襲

「私とベイビーは表に出て、倉庫の階段を使って屋上に上がるわ。ウニカは、この裏手から屋上まで上がってきて。残りの二人は指示があるまで待機。良いわね?」


 再びウニカを除く全員が再び首を縦に振ると、今度は志光が口を開いた。


「ウニカ。ここからビルの屋上まで上ってくれ。いいね?」

「……」


 自動人形が首肯すると、ソレルは少年の腕を取って歩き出す。


 二人は並んで夜の道を歩き、中山道に出たところで右折した。幸いなことに、道路は荒川にかかる橋に接続する目的で坂道になっており、向かい側にあるはずの駐車場からは視線が通らない。


 にもかかわらず、志光の心臓は激しく鼓動を打った。手の平に汗が滲んでくる。


 少年は顔を下に向け、時間をかけて息を吸った。数秒も経たないうちにソレルが耳元で囁いてくる。


「ここよ」


 二人の右側には、倉庫の屋上に続く露天の階段があった。入り口は鉄柵で閉じられている。


「今なら人がいないわ。乗り越えて」


 褐色の肌にそそのかされた少年は、一旦しゃがみ込んでから跳躍した。人間の約十倍を誇る筋力が、彼を一階と二階の踊り場まで導いてくれる。


 二人はできるだけ音を立てず階段を上がった。屋上には既にウニカがいて、手の動きで周囲に危険が無いことを教えてくれる。


 志光はソレルが指し示した先を見下ろしたが、恐らく駐車場がある場所は外灯が幾つかあるだけで薄暗く、様子がハッキリしない。少年は腰袋からタングステン棒を引き抜きながら首を振った。


「見えない。暗すぎるよ」

「大丈夫よ。私が教えた方向に撃って」


 褐色の肌はパニックに陥りかけた少年に励ましの声を掛けた。


「四人は車から降りて駐車場に向かっているわ」

「自分達の乗ってきた車を同じ駐車場に停めなかったの?」

「少し離れた別のパーキングエリアに停車しているわね。一カ所に停めて、攻撃された時のリスクを考えているのかも……来たわ。準備して」


 ソレルの声に反応した志光は、指先の感触に意識を向けた。彼の両手が青く輝き出すと、褐色の肌が中空の一点に〝蝿〟をホバリングさせる。


「三秒後に私の〝蝿〟を狙って。三……二……一、……撃って!」

「シッ!」


 志光は握っていた偽装弾を、亜音速まで加速させた。倉庫の屋上から放たれた一キロもある棒状の物体は道路を越え、駐車場の入り口に近寄ってきていた四人の白人男性のうち、一人の頭部を見事に捉えて貫通する。


 脳を吹き飛ばされた悪魔は、叫び声を上げる間もなく両膝をつき、一拍おいて黒い塵と化した。残りの三人は一瞬で事情を察知したようで、いきなり前方に向かって走り出す。


「こちらソレル! 敵一人を排除! 作戦開始よ! 残りは三人。河川敷に向かった!」


 ソレルが邪素無線機に向かって金切り声を上げた。志光が安堵の溜息を漏らすと、彼女は頬にキスをする。


「さすが私の彼氏だけあるわ。でも、残りの三人が車に戻らなかったのは気になるわね」

「駐車場を監視していたカニ男は?」

「駐車場の隣にある公園にいたけど、悪魔たちの後を追っているわ」

「移動先は?」

「すぐ側にある河川敷よ」

「さっき話していた場所だね。広いから色々隠せそうだ」

「たぶん、そうしているでしょうね。部隊を突入させるのは危険ね」


 ソレルは眉間に皺を刻むと、邪素無線機に向かって語りかけた。


「こちらソレル。全部隊に指示。敵の狙撃部隊が河川敷に潜んでいるかも知れないわ。うかつに堤防から顔を出さないで」

「こちら見附です。ということは、どうやって河川敷に侵入するんですか?」


 褐色の肌の下した命令を聞いた見附麗奈から、即座に質問が返ってくる。


「襲撃地点から約一キロ、堤防沿いを西方向に進むとリサイクルプラザがあるわ。そこからなら、斜面や階段を使わず堤防の上部に到達可能よ。プラザの下側がトンネルになっているからすぐ判るわ」

「了解しました。リサイクルプラザに移動します」


 ポニーテールの少女が返答すると、今度は麻衣から連絡が届く。


「こちら門真。見附がリサイクルプラザに行くなら、こっちは戸田橋から河川敷を見下ろせる地点に行けば十字砲火になるんじゃないか?」

「駄目よ。中山道は車が多い。一般人が射撃戦に巻き込まれて被害が出たら、この前の騒ぎどころじゃなくなるわ。見附に合流して」

「了解。ところで、警察は?」

「一番近いのは、プラザから西南方向に一キロ行ったところにある交番ね。パトカーを使えば三分でそちらに来るはずよ」

「配松を出すか?」

「お願いするわ。警官を巻き込みたくないでしょ? 殉職者が出たら厄介よ」

「了解」


 赤毛の女性との交信を終えたソレルは強ばった面持ちを無理に歪め、志光に笑いかけた。そこで二人の脇にいたウニカが、二人の服を引っ張って伏せるように促す。


 少年は仰向けに引っ繰り返った。すると、先ほどまで彼がいた場所を何かが通り過ぎ、同時に遠雷のような銃声が響き渡る。


「河原から撃ってきた? どこからスポットしてるの?」


 コンクリートの床にうつ伏せの姿勢になったソレルは、身体をくねらせて屋上の縁から身体を遠ざけた。同じく姿勢を低くしたウニカが、彼女に階段のある場所を示す。


「なるほど」


 苦々しい面持ちになった褐色の肌は〝蝿〟を階下に飛ばした。十数秒後に彼女は平常心を取り戻し、志光に事情を説明する。


「カニ男が下にいて、河川敷にいる狙撃兵に情報を送っているみたいね」

「駐車場にいた奴は、悪魔の後を追って河川敷に行ったんじゃないの?」

「別の場所にいたのを呼び寄せたんでしょうね」

「どうする?」

「屋上の縁にいなければ、弾丸に当たることはないわ。立ったらどうなるかわからないけど」

「でも、このままこの場に釘付けは嫌だな」

「裏から降りましょう」


 ソレルがそう言ったところで、階段を上がってくる足音がした。その数からすると、一人とは思えない。


 少年は腰袋に手を突っ込むと、タングステン棒を引っ張り出した。彼が階段のある場所に目を凝らすと、複数のカニ男が上がってくるのが見えた。


「シッ!」


 身体を半回転させてうつ伏せの姿勢になった志光は、握った偽装弾を加速させた。青く光った手から放たれた棒は、一体のカニ男を貫いて霧散させたが、残りは飛び上がると攻撃を避け、上から襲いかかってくる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ