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28-2.敵の動向

 海底トンネルを出たところで、スマートフォンを観ていたソレルの顔つきが変わった。彼女は志光に寄りかかって警告する。


「ベイビー、そろそろ静かにして。ウォルシンガムから連絡があったわ」

「……敵に動きがあった?」

「ええ。監視していたカニ男たちが動き出したわ」

「向かっている先は?」

「板橋区の荒川沿いにある駐車場のどこかよ」

「ここからだとどれぐらいかかるのかな?」

「板橋なら一時間ぐらいですね」


 自動車を運転していた大蔵が、二人の会話に入ってきた。


「間に合うかどうか、ギリギリかな?」


 志光が顔を曇らせると、ソレルが小さく頷いた。


「最初から、このケースは想定されていたはずよ」

「そうだね。他の車に連絡を」

「分かったわ」


 頷いた褐色の肌がスマートフォンで他の車両に指示を下している間に、大型4WDは首都高速湾岸線を突っ走る。少年は無言で時計を確認した。およそ午後一〇時だ。


 まだ肌寒い河川敷の側とはいえ、人気はあるだろう。大量の麻薬を持ち歩くには時間が早すぎるはずだ。


 ヨレヨレのスーツを着た中年男性が運転する車は、やがて首都高速中央環状線に進入した。しばらくすると、ソレルが新たな情報を声に出す。


「車が着いたわ。麻薬を積み込む場所が特定できた。中山道と荒川が交差するあたりの駐車場よ。マズいわね。周囲にマンションとパチンコ店があって、狙撃が難しいわ」

「そんなに人気の多い場所で麻薬の積み込みをやっているの?」

「深夜なら、ほとんど人が出歩いていないんでしょうね」

「狙撃場所は確保できる?」

「中山道を挟んだ倉庫として使用されているビルの上からならできるかもしれないわね。ただ、カニ男の警戒範囲を外れた場所から侵入しないと気づかれる恐れがあるわ」

「そういえば、近くにバスやトラックが止まれる場所はあるの?」

「ないわ。その辺の指示は私がするから安心して」

「任せたよ」


 志光から作戦のタイミングを一任されたソレルは、スマートフォンをこねくり回して地理を確認し始める。車はその間に首都高中央環状線に入り、山手線の外側をぐるっと回って渋谷、新宿、池袋を通り、そこから首都高速五号池袋線の車列に吸い込まれ、板橋区にある中台出入口から高速道路を降りた。


 一般道に戻ると、ソレルの顔つきがますます険しくなった。彼女はスマホの画面の上で指を素早く動かすと、次から次へと指示を送っていく。


「車を停めて」


 大型4WDが都道四四六号から四四七号に移ってしばらくすると、ソレルは大蔵に停止を命令した。


「ここから少し行くと、相手の監視エリアになるわ」

「ソレル。ここから敵の距離はどれぐらいあるの?」

「約二キロよ」


 志光の質問に褐色の肌が即答した。


「まずは私が〝蝿〟を飛ばして偵察するわ。その間に、バスに乗っている子たちの武装を準備させるつもりよ」

「配松さんは?」

「彼女にはすぐにバスを降りて貰うわ。私が安全を確認したら、こちらが指定した派出所で仕掛けてもらう段取りよ」

「OK! 任せるよ」


 少年が納得すると、ソレルの全身から青い光が立ち上り、やがてその光が幾つかの粒に変化した。彼女が車の窓を開けると、光の粒が屋外へと飛び出していく。


「寒いな」


 ジャージ姿のタイソンが不平を述べた。


「まだ三月よ。厚着をしないのが悪いのよ」


 褐色の肌はそう言い返すと瞼を閉じて意識を集中し始める。


 志光はリュックサックから邪素の入ったペットボトルを出して口を付けた。やがてソレルは目を開き、持ってきたバッグの中から邪素入りの水筒と無線機を引っ張り出す。


「やっぱり、背後から回って倉庫の屋上に行くしかないわね」

「どういうコースを取るの?」


 少年が計画を尋ねると、褐色の肌はタブレットに表示された地図を見せる。


「このすぐ先が新河岸川を渡る橋なんだけど、そこを渡ってしまうと倉庫へ着く前に公園の近くを横切らないといけないのよ。だから、その前にこの道を右折して中山道に出て、そこから反対側の道で車を停めて、倉庫の背後に回り込むわ」

「トラックとバスは?」

「そのまま新河岸川を渡って荒川の近くで待機ね。私達が不意打ちをしたら部隊を展開させて挟み撃ちにするのが理想よ。川の向こう側は工場地帯だから、トラックは目立たないわ。問題は、相手も河川敷に魔物を潜ませている可能性があることね」

「対処法は?」

「河川敷に隣接した道路は使わず、一本奥に車を停めるしか無いわね。本当は私が調べるべきなんだけど、このスケジュールでは時間が無いわ」

「それは仕方ない。すぐ作戦に入ろう」


 志光が決断を下すと、運転席から聞き耳を立てていた大蔵が車のアクセルを踏んだ。ソレルはタブレットを置いてスマートフォンを持ち直し、新たな指示をトラックとバスに送る。


 両側にマンションが建ち並ぶ二車線の舗装路を車が走っている間、乗車していたメンバーは邪素を補給し、邪素無線機を装着した。住宅街の人気の無さと比べると、中山道は深夜に近い時間帯でもそれなりに車の往来があった。その道を横断して川を渡った大型4WDは、右折してから細い道に入って停車する。


「ここからは徒歩で移動するわ。大蔵は車で待機して」


 ソレルが簡単な説明をすると、志光は後部座席、タイソンは助手席のドアを開けた。二人と褐色の肌、そして要蔵が下車すると大蔵が手を上げる。


「健闘を祈ってますよ」


 志光は無言で親指を立てた。そこで、後部ドアが開くと中からウニカが転がり落ちる。


「……」


 自動人形は無言で少年の傍らに立った。


「ウニカ。僕を守れ」


 志光がそう言うと、ソレルが残りのメンバーを先導し始める。


 一行は邪素を消費して中山道と並行して走る細い道を早足で駆け、都道四四七号と交差している箇所を一気に突っ切った。続いて彼らは道と東北新幹線の高架線が重なる場所で立ち止まる。


「その建物の裏に回って」


 ソレルは指で一つの建物を示した。残りのメンバーがその通りに動くと、彼女は今後の計画を口にする。


「気をつけて。中山道を挟んで、敵の悪魔が乗った車が移動しているわ。一分後に到着するはずよ。敵との距離は四〇メートル。ここを出て、倉庫の表に回ってから声を出せばクモ男に気づかれるから一切の発言は禁止よ。良いわね?」


 ウニカを除く全員が無言で頷くと、褐色の肌は話を再開する。


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