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25-7.宴会場の惨状

「緊急連絡よ。あなたのツレが大騒動を起こしてる」


 ツインテールはそう言うと少年を指差した。志光はその瞬間に全てを察知して天井を仰ぐ。


「麻衣さん? 仕伏さんがアルコール度数の高い酒を飲ませたんだな?」

「仕伏のヤツ、やっぱり我慢出来なかったみたい。宴会場が修羅場になってるって。私も食い止めに行かないと! みんなはここにいて!」


 ブレザーのジャケットにスマートフォンを放り込んだヴィクトーリアは、慌てて妹の部屋を出て行った。残された四人と一体はお互いに顔を見合わせたが、ヘンリエットは決意を固めた表情になると、大型のロッカーに近づいていく。


「私も参加します。これはチャンスかも知れません」

「チャンス?」

「麻衣さんを押さえ込めれば、ご主人様の私に対する評価も上がるのではありませんか?」

「無理無理無理! 麻衣さんのことを誰かから教わってないの?」

「噂は聞いています。悪魔の中でも、最強の一人だとか」


 ヘッドドレスを付けた少女は、どこからか取りだした鍵でロッカーの扉を開けた。その中には、長い金砕棒と楯が入っていた。


 楯の大きさは二メートル近くあり、上部に視認用のスリットがついていた。目を惹くのは何の支えが無くても垂直に立てられるほどの分厚さで、一体どれぐらいの重量があるのか分からない。


「凄い! ライオットシールドですね!」


 ヘンリエットが楯を引っ張り出すと、麗奈が感歎の声を上げた。


「私用の特注品で、一時的ですけど四〇ミリ砲の直撃にも耐えられます」


 ヘッドドレスを付けた少女はそう言うと、金砕棒を肩に担ぐ。


 彼女の格好を見た志光は、女尊男卑国の女性が水着のような姿でも問題なく戦える理由が分かった。あれだけ大きなシールドで全身を隠してしまえば、少なくとも最初の打撃をしのぐことは可能なのだろう。


「ご主人様。私は宴会場に向かいます」


 ヘンリエットは志光に一礼すると、駆け足で自室を出て行った。


「待ってくれ! 僕も関係者だ!」


 少年は大声を上げてヘッドドレスを付けた少女を追いかける。


 宴会場への経路は初めてこの国を訪れた少年にもすぐに分かった。半裸の男性達が期待に満ち溢れた顔つきで駆けていたからだ。


 きっと麻衣の拳で殴られたいに違いない。彼女が本気を出した時の破壊力を知らないのだ。


 志光は彼らが麻衣に撲殺される光景を想像しつつヘンリエットの背中を目印に走った。彼の背後から、二人の少女と一体の自動人形がついてくる。


 宴会場は比較的地上に近い場所にあった。魔界日本の体育館よりも狭いが、奥に本格的な舞台が設けられている。


 麻衣の姿はその壇上にあった。一列に並んで待っているマゾ男性たちを、下着姿で酒瓶片手に殴っている。


 彼女から一撃を食らった男は「ありがとうございましたあっ!」と叫びながら、壇上から転げ落ちて大の字になった。宴会場は失神した半裸の男で埋まりつつあるが、見た限りでは死者はでていないようだ。


 どうやら、片手が大きな硝子ビンで塞がっているせいで上半身の回転が遅くなり、それに伴ってパンチ力の低下しているらしい。間違いなく、仕伏がこの状況を作ったのだろう。会話をした時の印象通り、賢い男で感心する。


 壇上にはクレアとソフィア女王もいたが、二人ともうんざりした顔で殴打劇を眺めていた。そのうち背の高い白人女性が志光の到着に気づいて片手を挙げる。


「ハニー!」

「状況は?」

「見ての通りよ。宴会が始まってすぐに、仕伏が麻衣にアルコール度数の高い酒を勧めたのよ。後はご覧の通り。実に手際が良かったわ」

「了解。麻衣さんを止めないと」

「どうやって? ソフィア女王は鎮圧隊を結成すると言っているけど、女尊男卑国の女性から被害者を出したくないわ」

「それは僕も同感です」

「でも、ハニーじゃ麻衣を止められないでしょう?」

「まあ、それは何というか……」


 志光が言い淀んでいると、ヘンリエットがシールドと棒を持ったまま跳躍し、軽々と舞台へと降り立った。麗奈とウニカも彼女に続く。


「ヘンリエットです! ご主人様に代わって、私がお相手をさせていただきます!」


 ヘッドドレスを付けた少女は、遠間から麻衣に名乗りを上げた。


「ほう。志光君の婚約者かい? アタシの相手をする……だって?」


 赤毛の女性は据わった目で彼女を睨むと、並んでいたマゾ男性たちを押しのける。


「ヘンリエットが麻衣と? それは面白い」


 娘が戦いに臨んでいるにも関わらず、ソフィア女王は高みの見物を決め込んだようだった。彼女の態度を目にした志光が首を捻っている間に、麗奈がヘンリエットの背後につく。


「先輩! ここは女尊男卑国ですよ! これから同盟を結ぶ国です。正気に戻って下さい!」


 しかし、ポニーテールの説得を耳にした赤毛の女性はふふんと鼻で笑った。彼女は酒瓶を床に置き、両手を組んで手首を回す。


「麗奈。アタシに逆らうっていうのかい? 大方、そこのヘンリエットお嬢ちゃんと生娘同士で同盟でも組んだんだろう? こざかしいね」


 図星を言い当てられた麗奈は目を白黒させた。ヘンリエットも驚いた面持ちで背後を振り返る。


「麻衣様は酔っ払っていらっしゃるんですよね?」

「先輩は馬鹿みたいに勘が良いんですよ。相手の攻撃を見ずに躱すこともできるんです」

「それは凄いですね。でも、ここで引き下がるわけには参りません」


 ヘッドドレスを付けた少女は正面に向き直り、左手を突き出す形で半身の姿勢になった。彼女が戦闘態勢になると、麻衣もそれにならうように膝を曲げてファイティングポーズをとる。


 二人の構えはよく似ていた。彼女たちは互いの動きを観察しつつ、ジリジリと距離を縮めていく。


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