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24-3.政略結婚

「志光様、申し訳ございません。私が貴男に会いに行くことを知ったヴィクトーリア様が、同行すると言い出してこんなことに……」

「凄い力ですね。尻に敷かれそうだ」

「その点はご安心を。ヴィクトーリア様はソフィア様の有力な後継者で、女尊男卑国で女王としての務めを果たす予定でございます」

「あれ? 僕は過書町から結婚の話を打診されたと伺っているのですが?」

「仰る通りです。同じくソフィア女王様のお子様であらせられる、ヘンリエット様とのご縁談を、過書町様にお話しさせていただきました」

「え? じゃあ、そのヴィクトーリア様というのは?」

「ヘンリエット様のお姉様です」

「ええ?」


 戸惑った志光は、ヴィクトーリアの顔を見た。彼女は悪戯をした子供のように舌を出す。


「妹の許嫁が見たかったのよ。悪い?」

「いや、悪くないですけど……そうなると、ヴィクトーリアさんは僕の義姉になるんですか?」

「婚約が成立すれば……ね?」

「それでは、もう一度、詳しいお話をさせていただきます」


 麻衣とソレルが執務室に入ってくるのを目にした仕伏は、咳を一つしてヴィクトーリアに合図をすると、彼女を元いた席に誘導した。志光もクレアの隣にあった手近な席に腰を下ろす。


「三度目の自己紹介になりますがお許しを。私は仕伏源一郎という者です。女尊男卑国の女王の中の女王、ソフィア女王様の代理として、この魔界日本へやって来ました」


 偉丈夫は周囲を見回し礼をしてから話を再開する。


「私の役目は、ソフィア女王様のお子様の一人、ヘンリエット様を、この魔界日本の棟梁であられる地頭方志光様にご紹介するというものです。通常、女尊男卑国で生まれた女性は、男性を傅かせる女王として生きていくのですが、ヘンリエット様は十歳、十一歳、十二歳と三度にわたってこの役目を拒否したため、我が国の掟に従い、他国の悪魔の元に嫁ぎ、我が国の繁栄のためのいしずえになることが決まっていました」

「つまり、政略結婚ですか?」


 仕伏の言葉が一区切りつくと、すかさず志光が質問を浴びせかけた。偉丈夫は一旦目を伏せてからにやっと笑う。


「仰る通りです。しかし、双方が同意の婚姻関係ですら利害関係が完全に排除されるわけではありません。しかも、我々は悪魔です。現実世界の婚姻規則など笑止千万。とは言うものの、です。肝心のヘンリエット様が気乗りなさらないのでは、幾ら私がお膳立てをしても意味がありません。このお話を地頭方志光様にさせていただいているのには、それなりのわけがあります」

「それなりのわけ、とは?」

「ヘンリエット様は大の日本通で、日本のアニメや漫画がお好きなのです」

「ほお……」

「それで、貴男が棟梁就任式で配布したお写真をいたく気に入られたご様子でして……」

「ひょっとして、あの甲冑写真ですか」

「そうです」

「そうですか!」


 志光は思わず顔をほころばせた。


 まさか、あの写真を気に入る人物が現れるとは思ってもいなかった。なにしろ、甲冑姿は魔界日本の女性陣には概ね不評で、自分だけでなく撮影した美作まで陰でぼろくそにこき下ろされていたのだ。


 その証拠に、クレアも麻衣もソレルも微妙に顔を引きつらせている。平然としているのは過書町茜だけだ。


「そうですか、そうですか! あの写真を気に入っていただけるとは、もの凄く嬉しいですね!」

「はい。是非、貴男にお目にかかりたいというお話をお母様にされたそうです」

「ヘンリエットさんが?」

「そうです」

「いやあ、それも嬉しいですね。やっぱり、悪魔になっても他人から認められるというのは気持ちの良い事ですねえ」

「それでは、ヘンリエット様との婚約を前向きに考えていただけると考えて間違いありませんか?」

「もちろんです」

「それは良かった。まず、こちらの条件からお話をさせていただきます。もしも、無事に婚約が成立した場合、女尊男卑国からヘンリエット様の持参金として、魔界日本との攻守同盟を結びたい、というのがソフィア女王様の意向です」

「攻守同盟?」


 志光は反射的に湯崎のいる場所を見た。魔界日本の軍事専門家は、ヴィクトーリアの股間を見ようと四つん這いになりつつも、少年の疑問に答えてくれる。


「軍事同盟の一種だ。軍事同盟にも色々と種類があるんだが、多いのは安全保障条約とか相互防衛条約という名前の取り決めで、たとえばA国とC国が相互防衛条約を結んでいるところに、B国からA国が攻撃を受けた場合、C国がA国に軍事物資を送ったり派兵をしたりする、というものだ」

「はい」

「それに対して攻守同盟は、A国がB国に攻撃を仕掛けてとしても、C国がA国に軍事物資を送ったり派兵をする義務が生じる。つまり、魔界日本がホワイトプライドユニオンと戦争をおっ始めたら、女尊男卑国は俺達に軍の派遣をしてくれるって寸法だ」

「それは願ったり叶ったりですね……」

「ああ。聞いて驚くな。派兵規模は最大で一個中隊、つまり二〇〇人前後だ」

「ちょっと待って下さい! それってウチの戦力が五割増しになるってことじゃないですか!」

「もちろん、こちらも女尊男卑国が戦争になったら同等の派兵をしなければいけないので、厳しいと言えば厳しいんだが、それでも大盤振る舞いなのは間違いない。少なくとも、俺はこんな豪勢な持参金の話を聞いたことが無い」


 湯崎は真剣な面持ちで、ツインテールの脚の間を凝視しながら志光に告げる。


「坊主。女尊男卑国のお嬢さんと結婚しろ。それができれば、お前の魔界日本における地位は揺るぎないものになる。それに、女尊男卑国のお嬢さん方は、みんな面相がおよろしい。しかも尻に敷くタイプじゃないって言うんだから、もう悪いところが一つも見つからないじゃないか」

「そうですよ、ヤリ……じゃなかった棟梁。是非、ヘンリエットさんと結婚して下さい。こんなに条件の良い縁談は、もう二度と来ないですよ」

「…………過書町さん。今、言っちゃいけないことを言おうとしてなかった?」

「いいえ。そんなことより、縁談の話を進めませんか?」

「うーん……」


 志光は後で茜を問い詰めてやると決心しつつ、心中で損得勘定を開始した。


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