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23-3.ソフィア女王様からの呼び出し

「邪素を消費すると、悪魔は人間だった頃の約一〇倍の膂力を得るが、希に一五倍、二十倍の力を得る者もいる。ソフィア女王は、そうした悪魔の女性を女尊男卑国の男性たちが選別し、彼女らに子を残して貰っていった結果なのだ」


 ギブソンタックの少女が女尊男卑国に参加した男たちの精華だと知った仕伏は、彼女に傾倒した。それから三〇年ほどの月日が経ち、ソフィアは〝女王の中の女王〟の称号を名乗れるまでになった。


 もちろん、ギブソンタックの女王を補佐していた踏瀬や仕伏も、彼女と一緒に女尊男卑国のヒエラルキーを昇っていった。今や、二人を叱責する権利を持つ者はソフィアだけになった。


 男尊女卑国を支えるための〝経済活動〟に従事すべく現実世界で働いて、何日かぶりに魔界に戻ってきた仕伏は、自室でスーツを脱ぐとブーメランパンツ一枚の姿になり、全身鏡の前に立って自分の肉体に無駄がないかどうかを入念にチェックした。続いて高位のマゾ男性はソフィアからプレゼントされた首輪を填め、鏡に映った己の姿を悦に入った面持ちで眺める。


 すると、牢獄を模した居室の扉をノックする音が聞こえた。鏡の前を離れた仕伏は、木製の扉を開ける。


 そこには、彼と同じ格好をした踏瀬が立っていた。


「お帰り仕伏君」

「踏瀬さん。私の部屋にわざわざ来ていただくとは……何かありましたか?」

「ソフィア女王からの言付けだ。重要な相談があるので、すぐ彼女の部屋に来て欲しいとのことだ」

「重要な相談とは?」

「私も相談されたが、内容は話せない。ただし、私と君の意見が尊重されるとだけは言っておこう」

「……分かりました。今から直ちに女王様のお部屋に伺います」

「よろしく頼む。私はそろそろ現実世界に行く」


 会社社長に黙って頷いた仕伏は、自室の扉を閉めると廊下を歩き出す。


 女尊男卑国の建築物の大半は、地下牢ダンジョンにそっくりだ。実際にその大部分は地下にあり、壁も床も石やレンガを素材として使っている。


 ソフィアの部屋も例外ではなかったが、マゾ男性たち居室と比べるとはるかに広く、かつ天井が高く、赤い絨毯や金色のカーテンで装飾が施されている。


 ソフィアは一段高い場所にある、金色のソファに座っていた。最近では珍しく、女学生を想起させるような白い下着を身につけている。


「仕伏。よく来た」


 彼女は困ったような顔で高位のマゾ男性を手招いた。仕伏は入り口で四つん這いになると、もの凄い勢いでギブソンタックの女王に近づいていく。


 ソフィアは思案するような面持ちで、高位のマゾ男性を見下ろした。


「実は困ったことが起きてな」

「何でしょうか?」

「ソファの下に置くマットが無いのだ」

「お任せ下さい。女王様」


 仕伏はそう言うと、ソファの下に仰向けの姿勢で寝転んだ。ギブソンタックの女王はクスクス笑いながら、マゾ男性の顔と股間に素足を乗せた。


 至福の時間。


 仕伏はうっとりとした表情で女王の足の裏を舐めた。『瘋癲老人日記』で谷崎潤一郎は高血圧なのに足舐めをしてしまい、興奮の余り意識が遠のくマゾ老人を活写したが、今ならその気持ちが痛いほど解る。こんな美人の御御足をベロベロできるなんて嬉しすぎて死んでしまいそうだ。


 しばらく飼い犬と戯れたソフィアは、やがて両足をソファに乗せると、パンティに挟んでいた写真を指で抜き取った。そこには未来甲冑に身を包んだ地頭方志光の姿が映っていた。


「そろそろ本題に入ろう」


 ギブソンタックの女王は、そういうと地面に寝転がった仕伏に写真を突き出した。反射的にその場に正座した高位のマゾ男性は、写真を受け取ると凝視する。


「これは確か、魔界日本の新棟梁の就任記念として配布された写真では?」

「そうだ。名前は地頭方志光という」

「覚えておりますが、どうして女王様がこの写真を?」

「妾にとってはどうでも良い男だが、ヘンリエッタがこの写真をいたく気に入ってな」

「ヘンリエッタお嬢様が!」


 仕伏は目を剥いて絶句した。彼の反応を見たソフィアは溜息をつく。


「やはり、そのような態度か。あの子は、昔からこういう日本風の漫画やアニメが大好きだったから、予想がつかなかったわけでは無いのだが。何と言ったか……オ、オタ?」

「オタクでございます、女王様」

「そうだ、そのオタクだ。残念だが、娘には女王としての素質が無い」

「能力だけは、間違いなく女尊男卑国最高の逸材ですが、よりによって……」

「そうだ。よりによって、娘は支配するよりされる方が大好きなのだ。そこは、父親の血を引き継がなくとも良かったものを」

「残念です」

「妾もだ。しかし、ヘンリエッタにも掟は守って貰う。我が女尊男卑国を盤石にするために、女王としての素質がない女子を政略結婚に使うのは我らの習わし」

「まさか、ヘンリエッタ様を魔界日本の棟梁に嫁がせるおつもりですか?」

「そのつもりだ。そこで踏瀬とお前に話を聞こうと思った。二人とも元日本人。魔界日本についても多少の知識はあるだろう」

「なるほど。それで踏瀬氏と私に……」


 仕伏は床に正座した状態でううむと唸った。ソフィアは脚を開くと太股に肘をつく。


「まず、我らが知っている情報から整理しよう。魔界日本の先代棟梁、地頭方一郎と妾は何度か顔を合わせたことがあるな?」

「間違いありません。男にしては、なかなかの強者だったかと」

「妾は確かにそう言った。だが、どうやら彼は死んだらしい。この情報に信憑性があると思うか?」

「分かりません。我らが死す時は黒い塵になるだけ。証拠はどこにも残らないでしょう」

「うむ。では次だ。二代目棟梁になった息子の志光だが、半年ほど前までは人間だったようだ。血縁関係者に玉座を譲るのは不思議では無いが、急に悪魔化させてまで後継者にするのは不自然ではないか?」

「仰る通り、不自然ですな。自分の下で何年も経験を積ませるのが常道かと」

「では、どうして不自然な行いをしたと思う?」

「推測でしかありませんが、やはり予想外の事態が起きたと考えるのが自然でしょう。伝聞によれば、今の棟梁は先代の遺言を根拠に地位確保を訴えたそうなので、いずれは後継者にするつもりだったのかも知れませんが、それなりの経験を積ませる前に……」

「……地頭方一郎は不慮の事故で死んでしまったか、あるいは殺された?」

 主従はそこで顔を見合わせると、同時ににやっと笑う。

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