【短編小説】半分この約束
あの時の君はただ無邪気に真っ直ぐで呆れるくらい無知で。
第一印象は最悪だった。目を開けるとそこに君がいて屈託のない笑みを僕に向けていた。何がそんなに楽しいのかまるでわからない。
冬の通り抜ける風で鼻の頭は真っ赤になっているというのに君は僕の横に来て話しかけては笑う。僕は返事をすることもないのに毎日毎日飽きもせず。今日は星が良く見えるねとか、昨日のご飯は大好きなハンバーグだったんだとか。
あとはそう、半分こが口癖だった。これも頼んでなんかない。それなのに寒いよねと手袋を片方僕にはめたり河原で綺麗な石を拾ったからと僕に一つくれたりした。
そして今、君は見飽きたあの笑顔で僕に手を振っている。また来年来るからね、待っててね。僕が約束を守ると信じて疑わない。本当に君は無知で馬鹿だ。心底嫌になる。勝手にそんな約束だけ残して。
……ごめん。ごめんな。約束守れなくてごめん…。僕は君を待つことなく冬が終われば溶けてなくなってしまうから。
ねぇ。もし僕の願い事が一つ叶うとしたらいつか君のところに半分こをしにいくよ。この名前も知らない温かさを。君のその能天気で大好きな笑顔がなくなることがないように。