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ブラック・マリア  作者: 夢見 絵空
第一章【善悪の彼岸:全悪の悲願】
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告白


 医者曰く、しばらく安静にしろ、とのことだった。


「顔見知りのよしみで警察にも通報しない。その代わりじっとしてな」


 いつものように、医者のくせに足をくんで、けだるそうに、自分の爪の手入れをしながら彼女はそう言った。


「ガキ扱いだな」


「十七歳はガキよ。あんたは一人でも生きていけるけど、一人で生きてるってことを知ってるこっちは気が気じゃないの」


 また世話好きの説教だ、聞くだけ毒になる。


 丸いすから立ち上がり、荷物置きされていたかごの中からモッズコートをとりだして、袖を通してからフードを被った。


「しばらく店は閉じるから、酒は別のとこで買え」


 素っ気なく、事務的にそう告げると彼女は舌打ちをした。そして爪から目を離し、こちらをにらんでくる。


 派手なマスカラが目立つ目元と、頰についたそばかすに目がいってしまう。今年で三〇歳のはずだが、あまり年齢は感じられない。


 日頃の若作りの成果が生きているようだ。


「じっとしてな」


「だから店を閉じると言った」


「店閉じて、どっか行く気でしょ。言っとくけど、今度そんな妙な怪我してきたら通報するからね」


「わかった。次は別の医者を頼るから、紹介状でも書いてくれるか」


 彼女は苛立ちが絶頂に達したのか、ああもうっと毒づくと「次の方っ」と大声で、外で待っている患者に告げた。


「治療は終わりよ。さっさっと、どっか行け」


 しっしっと手払いをされてたので、私は礼も言わず診療室から出た。入れ替わりに、腰の曲がった老人が入っていく。


 頰に張られたガーゼを触ってみる。意外と軽傷で済んだ。昨日の晩は死を覚悟したが、終わってみればこんなものか。


 受付で治療費を払うと、受付の看護師から「これ」と言って渡された塗り薬をポケットにいれて、外に出た。


 私がこの街に来て、この町医者には何度も世話になった。


 昨日の爆発は、直前で何とかかがみ、頭を防御したら、外傷は頰に割れた瓶の破片がかすった程度ですんだ。床に全身を打って、そこら中が痛いが。


 ただ、何があったか確認された時、嘘をつくのも誤魔化すの面倒なので、ここを頼った。


 あの医者は、昔らからああだ。だから、今回も小言を言われるとわかっていた。それだけですんだのだからよかった。


 店の棚は爆発のせいで商品が台無しになり、棚そのものも黒焦げになったので、買い換えとそれに伴う閉店が必要になった。


 学校も、働く店もなくなった私は、まさに根無し草だ。


 だから——。


 たばこを取り出して、くわえて火をつけた。


「暇つぶしをしてやる」


 それが望みなんだろ、真理愛。




 聖真理愛という人間をもし、何かにたとえろと言われれば、それは『魔性』以外になかった。


 彼女はすべてを思い通りにする力があった。古い言葉を使うならカリスマ性とでもいうべきか。


 周りは彼女がそこにいるだけで、彼女を中心に動こうとするし、彼女もそれを意図的にはしていないが、そうであって当然だと思っていた。


 いや、思うこともしてなかったかもしれない。


 それくらい自然に、彼女という人間は多くの人間を惹きつけた。


 私が彼女と知り合ったのは、高校一年生のときだった。 


 群れるのが嫌いだった私はクラスでは常に一人でいた。


 対して真理愛は、ものの数日でカーストの頂点に君臨していた。クラスの誰もが彼女に逆らえない空気を作り出した。

 そんなものに興味がなかった私だったのに、彼女の方は違っていた。


『傷魅さん』


 ある日の放課後、急に声をかけられた。まだ高校生になったばかりだというのに、大人っぽい雰囲気を出しつつ、幼い子供のような純真さを感じさせる声。


『なんだ』


 気のない返事をすると、彼女は「うふ」と笑った。


『デートしよう!』


 あまりにも唐突で、突拍子もないことで、言葉を失った。何を言われても断る気でいたのに、返事さえできなかった。


 真理愛はそんな私の両手を包むみたいに握って引っ張った。


『私ね、傷魅さんが好きみたい。ね、おいしいアイスクリーム屋さんがあるの。一緒に行きましょ』


 そのときの彼女の笑顔は、今でも忘れられない。あの顔が、未だに消えない。


 結局、断ることもできず、私は彼女とアイスクリームを食べた。彼女は一口食べるたびに「わあ」とか「うーん」とか、とにかくうるさくて、それでいて楽しそうだった。


 そんな彼女をしばらくずっと無表情で見ていたが、ある時、なぜか、いまだにどうしてかわからないが、小さく笑ってしまった。


 真理愛はそんな私を見ると、本当にうれしそうに笑った。


 私たちの関係はその日から始まった。


 いや、始まってしまった。


アイスクリーム屋さんって実際「31」くらいしか見たことないですけどね。

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