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ブラック・マリア  作者: 夢見 絵空
第四章【悪の教典:悪の凶展】
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悪の教典


 俺と真理愛が出会ったのは、確か五年前だ。


 最初はな、取引相手から面白い中学生がいるって噂を聞いたんだ。その時は相手も面白がって詳細は教えてくれなかった。


 俺もそこまで気にとめてなかったが、それからすぐにあいつと会った。 


 その頃から真理愛はクスリの売買はもちろん、他の犯罪にも手を出してたから、意外とすぐ出会えたぜ。万屋ってところで俺とあいつは同業者だったからな。


 きっかけは売春の斡旋だったよ。俺は客に女を紹介して、金をせしめる。


 ただその女を用意してきたのが真理愛だった。あいつは自分の同級生を商品にして、俺から報酬を受け取りやがった。


 最初、俺はあいつに言ったんだ。遊びでやってんなら死ぬぞってな。ちょっと脅してやろうと思ったんだよ。てっきり中学生がいきがってるだけだと思ったんだよ 。


 でも違った。あいつは俺の言葉に、自然と笑いやがった。


「それも楽しそう」


 その返事が面白くて、それからちょくちょくと一緒に仕事をするようになった。でも驚いたぜ。あいつはぐれたわけでも、いきがってたわけでもない。


 純粋に遊んでやがった。


 犯罪が楽しいって、口癖みたいによく言ってたな。性癖だったんだよ、罪を犯すってことがな。俺と似てるなって感じたよ。だから、いろんな犯罪のノウハウを教えてやった。


 自慢してやるぜ。あの希代の天才犯罪者を育てたのはこの俺だ。


 まあ、あいつの場合、手口を少しでも教えてやれば、すぐに実践して、それより上手い方法を編み出してた。あいつが俺の教えたとおり犯罪やったことなんてほぼねえな。


 そんな関係が続いて、確か……あいつが中学を卒業する前だったよ。人を買いたいって言ってきたのは。

「できるだけ自分と近い容姿の女の子が欲しいの。売ってるところ、知らない?」


 人身販売はまだ手をつけてなかったから、俺は待ってろって言った。


 そこの『自警団』なら知ってるだろ? 人身売買なんてもうそこまでやってないんだよ。この国じゃ需要がそこまでねえんだ。人を生かしておくこと自体に金がかかりすぎんだよ。


 しかも商品が日本人となると、かなりのレアものだ。


 ただ外人の、人が腐るほどいる隣の大陸出身の商品なら見たことがあった。その筋の連中をあたって、業者と会った。そこで真理愛の要望にあうガキを一人買った。意外にあっさり手に入ったぜ。


 真理愛にそのことを言うと、あいつ、むちゃくちゃ嬉しそうにしてやがった。


「さすがだね、リベラ。言い値で買うよ」


 中学生にそんなこと言われたら、普通は殺してやろうかっ思うけど、あいつの場合はそうもならないから不思議だったよ。


 で、いくらだったと思う? 俺があいつに要求した金額。‒‒一億、一億だよ。まだ十五歳のガキだったが、あいつなら用意できるかもしれねえと思ったんだ。


 そしたらあいつ、次の日には現金で渡してきやがった。


 そのとき思ったよ、犯罪にも才能ってもんがあるんだなって。もうこいつに何かを教えるのはやめようと決めた。この世界に入って、初めて危機感を覚えたな。


 真理愛がその後にどうしたかは、ちょっとしか知らねえ。知っているていうか想像できるんだよ、あいつのしそうなことは。


 買ったガキを整形させてた。もちろん正規の医者じゃねえよ。あと、そのガキはまともな教育なんて受けてなかったから、ある程度勉強も教えてたみたいだぜ。


 さすがに、そういう動きをしてたら何がしたいかなんかわかるって。こいつ、身代わりを作ってるんだってな。


 詮索はしなかったぜ。それがマナーだしな。


 それからは本当に一緒に仕事をする数を減らした。やばいと思ったし、何よりあいつが変わったんだよ。


 中学の頃はとにかく犯罪することが楽しくて仕方ないって様子で、それ以外興味ない感じだったけど、高校に入ってからはそうじゃなくなった。


 わかるだろ。傷魅、お前だよ。


 高校に一日も欠かさずに出てやがった。それでいて、それが楽しいって言って、会えばお前の話ばっかりしてきやがった。


 こっちがたまに仕事の頼み事をしても「今日は挽歌とデートだから他の人をあたって」って断られたことだってあったぜ。ありえねえ、もう前までのあいつじゃなかった。


 馬鹿みてえだったよ。というか、お前の話をしてるときだけは、あいつは普通の女子高生だったんだ。俺としては、魅力がなくなったなって思ったけどな。


 そんなこともあって、俺はあいつと疎遠になった。


 それが今年の春、いきなりアポイントをとってきたんだよ。そこであの女、大池を紹介された。


 真理愛は「学校内で取引しにくくなったから、代わりにクスリを売ってあげて」って言ってきた。仲介金も、紹介費もいらねえって話だったから引き受けることにした。


 それからしばらくは真理愛からこっちに連絡を入れてきた。たいていは大池のことだったよ。順調に取引できてるかどうかの確認だ。


 そのついで、お前の話もさんざんされた。そのときだよ、お前がよく渋谷にいるなんて聞いたのは。


 ああ、くそ、そのとき気づくべきだった。あいつが顧客を譲るなんてことするわけねえってことも、あいつが取引しにくいなんて状況を作るわけがねえってことも。


 全部、こうなるために仕組んでたことなんだよな。


 真理愛が死んだって聞いたとき、身代わりを使ったんだなって察しはついた。ただ、別に気にしなかった。相互不干渉だ。


 ただ、あの夜、お前が大池を使って俺に会いに来たときは、何かおかしいなって感じたんだ。あのとき逃げたのはお前が厄介だったからじゃねえよ。


 あそこでお前と俺が会うってことが、むちゃくちゃ作為的に感じたんだよ。だから、逃げたんだ。お前からじゃなくて、真理愛からな。


 で、逃げ切ったから大池を山の中で解放した。適当に姿をくらませろって言ったよ。あいつはとにかく俺からもお前からも逃げたかったみたいで、車から飛び出して走ってどっかに消えたよ。


 大池が殺されたって聞いて、真っ先にお前がやったんだって思った。だから渋谷に行って、お前を見つけ出して、殺してやろうと思ったんだ。


 お前が捕まれば俺だって危ないからな。でも、まさか『自警団』が出てくるなんて思わなかった。ただ、拘束されてこいつらと話して、ようやくわかったよ。


 真理愛はこうなるように最初から仕組んでたんだって。言っただろ、あいつ、異様に策士なんだよ。


 ああ、くそ……あいつ、悪魔だろ。

今回は今までとは違うテイストでまたマリアの過去に迫りました。


明日からはまた戻します。


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