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ブラック・マリア  作者: 夢見 絵空
第一章【善悪の彼岸:全悪の悲願】
3/37

生首に聞いてみろ

 一瞬で受話器を握っていた手に汗をかき、力がぬけそうになる。誰もいないのに、なにもないのに、思わずふらつく。


『挽歌、元気にしてた? 私が消えて、泣いてくれた?』


 こちらが混乱しているというのに、彼女の声はいつもどおり余裕で、上から目線で、嬉しそうだった。


 なんとか正気を保つために、自分の額を力一杯殴りつけたら、頭に浮かんでいた彼女の顔がいくつか消えていった。


「……お前は、誰だ」

『ねえ挽歌、私の特別。私を見捨てるの?』


 質問の答えは返ってこなかったが、それが何よりの答えだった。こちらと意思疎通をする気はなく、語りかけるだけ。それが聖真理愛という女だ。


 また「うふ」という笑い声が聞こえる。


『そんなの、許さないんだから』

「おい、お前」

『挽歌、私の挽歌。早く、私を見つけてね。じゃないと、また……傷つけちゃうんだから』


 言い終えると、とても楽しそうに「あはは」という小さく、それでも甲高い笑い声をしばらくさせてから、電話がきれた。


 受話器を握ったまま、立ち尽くしてしまう。


 間違いなく、真理愛だった。彼女の声で、彼女の言葉で、彼女の性格だ。呪いのように脳裏から離れない、彼女の残り香と一致する。


 どうなっている。彼女は殺された。そのはずだ。死体と真理愛のDNAと一致していた。あの公僕からそう聞いている。


 じゃあ、今のはなんだ。


「……幽霊にしては、元気そうだ」


 そんな空しい強がりを言ってみるが、本当に空しいだけだった。


 私を見つけろと彼女は言った。どうしろというのか。彼女はとうに死体になって見つかっている。これ以上、何をしろと––。


「……首か」


 そうだ。真理愛の死体はバラバラにされていたが、その肉塊の中から首は見つかっていない。


 まさか、あの死体が自分じゃないとでも今更言うつもりか、あの女は。


 受話器を戻し、額に手をあてて、天井を見上げて深く息を吐く。ゆっくりと深呼吸を繰り返す。


 落ち着け、冷静になれ、感情を殺せ。


 しばらくそうして、正気を戻そうとしていたときに、何か聞き慣れない音が耳に入った。この店に似合わない、妙な機械音。


 ピッピッという、携帯電話のアラームに似た小さな音。しかし、この店にはそんな音がするものを置いていない。爺さんも婆さんも機械は苦手だった。


 音の鳴る方に足を進める。その間も音は止まらず、むしろ大きく、間隔が早くなっていた。


『また……傷つけちゃうんだから』


 楽しそうにそう言っていた真理愛の声が頭に響く。嫌な予感しかしない。


 音がしていたのは、入り口近くの棚だった。比較的に安物のワインを並べている棚。生前の爺さんが『ワインへの入門』と名付けていた一角。


 いくつも並べられているワインの向こう側に、小さな赤い光が点滅しているのが見えた。


 もはや、予想できない方が難しい現実にため息すら出ない。


 瓶をどけていくと、正方形の黒いデジタル時計があった。ただ、時計のくせに現時刻は表示していない。タイマーモードになっている。


 ただ、あと三秒でタイマーも終わるようだ。


 時計にはご丁寧に何か小さな筒状のものが茶色いガムテープで巻き付けられていた。


「……安い演出だな、真理愛」


 そんな心底面白くない愚痴をこぼしたのと、時計が「0」を表示したのがほぼ同時。


 次の瞬間、目の前のそれが強烈な発光をし、轟音をさせ、炎を起こして爆爆発した。


今回は短めの更新です。


土日は更新しませんので、次回は月曜日となります。

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