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プロローグ
…静かに風が流れる音だけが聞こえる。
遠くに泣き喚いてる人の声が聞こえた。
でも前は見えない。
周りを黒いなにかが覆っている。
雲のような、煙のような黒い、絶望が。
働いているのは私の聴覚だけだ。
ふと、肩になにかが触れた感触を覚えた。
「もう…母さんはいないんだ。お前のせいじゃない、絶対に。お前のせいなんかにさせないから。」
聞き覚えのある声が泣き声で言う。
私は何も考えられないし、何も見えなかった。
いや、何も考えたくなかった。
何も見たくなかった。
何も聞きたくない、何も感じたくない、何も言いたくない、、
「何も…何も、したくない!!私なんか…私なんか…!!」
喉を突いてかろうじて出た声はからからで掠れていた。
その瞬間、私の中でなにかが弾け周りを覆っていた絶望が消えた。
全てが目に入った。
肩に触れていた父の手も
こちらを哀れみの目で見てくる人たちも
そして、その先にある
人間だったとは思えない程に残虐に殺された母の遺体も。