マジックショー……じゃない入学試験です
「それでは、受験番号1番から10番の人前に出て魔法を使ってください」
いよいよこの日がやってきた。ソルセルリー学園の入学試験日。この学校に通いたいかといわれると非常に微妙だけど、ニートではなく学生という身分を手に入れるために頑張らないと。受験番号ごとに呼ばれて実技試験が始まる。
なんかあれだな……、昔見たマジックショーみたい。火がつけられたり、花が咲いたり、鳥が出て来たり。そのうちトランプとかも出て来たりしないだろうか、しないか残念。いや、マジックショー……じゃない試験に見入ってる場合じゃない、もうそろそろ私の番号が来てしまう。
「はい、じゃあ次、受験番号60番から70番の人前に出て魔法を使ってください」
さて、私の番が63番。61番の人は水で空中に渦巻きを作っている。あれ、だいぶレベルが高くないかな、みんなそこまで派手な魔法使ってなかったんだけど、まぁ何人かレベルが違う人っていうのもいるよね。次は62番……。
いや、まさかの爆発する魔法だよ! ド派手だなおい、しかもこんだけ大爆発しているのにきちんと操っているのか物にも人にも被害が無い。魔法の爆発なら傷つける人と傷つけない人を選べてしまうのか、科学の国の爆弾なんかよりよっぽど使い勝手がよくない? あれなんて下手に使ったら味方どころか自分もやられかねない代物なのに。え、科学の国こんなところと戦争寸前までバチバチしていて仲悪いの? これ勝ち目無くない?
科学の国が滅んだら困るので戦争が起こらないことを切に願う。というか戦争が起きたら私はどっちの味方をしたらいいんだろう。魔法の国にはいるけど国としての愛着は科学の国の方が大きい、かといって負けそうなうえに危険を冒してまで戻りたいかっていうと、どちらかというと戦争が終わるまで息をひそめて隠れておいて、戦争の勝敗が付いた後に勝った方の国の人としてひょっこり現れたい。
科学の国の友人だけは心配だし助かってほしいけどね。
「どうかしましたかミリアルさん?」
あ、いけない試験の最中に考え事に耽ってしまった。次は私の番だ、またジャックと豆の木になったりしないように集中して魔法を唱えなくちゃ。
「すみません、何でもありません。魔法を唱えます、アーブル・クロワサンス」
きちんとイメージをしながら魔法を扱う、常識的なサイズな木が生えてきた。周りは騒ぎになったりしていない、とりあえず常識はずれな魔法にはならなかったようで良かった。目立てば目立つほど怪しい人に思われてしまいそうだから、できるだけ目立たず恙なく学生生活を送りたいところ。
無事に終われば木を消してホッと息を吐く。その後も受験番号通りにいろんな人が魔法を唱えていく、うん一番ド派手だったのはやっぱりあの爆発の魔法を唱えた人かな。あれ以上凄いのをいっぱい撃たれたら、頭のキャパシティを超えてしまいそうで見たくないから良かった。……少しだけ見たい気がしなくもなかったけど、怖いもの見たさ的な。
「全員の魔法が終わりましたね、では今から結果を発表します」
さっきの人で全員の魔法が終わったらしい、って今から!? え、試験結果って普通何週間後とかそんな感じで発表されるものじゃないの!? というかどうやって発表するんだろう、口頭で呼ばれるのかな。
……、水の文字が空中に浮かび上がる、便利だな魔法。もぅいいよ突っ込んでいたらきりないし。私の番号は……、あ、ちゃんとあったよし、これでちゃんと学生の身分を手に入れることができた。全寮制は気が重いけれど。
「4月1日、入学式がありますので、学園に来てください。詳しいことは今から配布される入学要項に書いてあるので、そちらを確認してください」
そういわれると空から紙が降ってくる。学則や入学式の日時、カリキュラムや寮についての説明とか諸々……、ってこれ寮一人部屋じゃなくて全員二人部屋って書かれているんだけど、つまりは魔法の国の人と四六時中一緒なわけで。
え、詰んでない? 四六時中一緒で気づかれないとか無理じゃない?? リュウシュン先輩と少し一緒に過ごしただけでリュウシュン先輩には怪しまれんだよ、これ無理ゲーだ。
どうか、鈍感な人が私と同室になってくれますように。あんまり信じていない神様に神頼みをしてみた。
「ねぇ、あなた」
神頼みをしていれば金髪の女性に声をかけられた、めちゃくちゃ睨まれている。え、何か私やらかした? そんな記憶は全くないのだけど。内心冷や汗をかきながら金髪の女性を見る。って、しかもこの人試験で爆発の魔法を使っていた人だし、え、あんな魔法ぶつけられたら私死んじゃうよ。
「なんでそんなに変な魔力をしているわけ」
んん……?えーと私の言動がじゃなく、魔力がおかしいのか。ってどうしようもないじゃん、第一私に聞かれても何のことかさっぱり分からないし。あれか、リュウシュン先輩が言っていた凄い量の魔力のことを言っているの? だから何事もほどほどがいいのに。というか確か魔力を見るのって、魔力鑑定の目が必要になるんだよね、この人学園に入る前からそれを使えるって、入学試験で爆発の魔法を使っていたのと言い魔法の天才なんだろうか。
「無視しないでよ。何そのきょとんとした顔。もしかして自覚がないの? こんなに規格外な魔力をしている上に、魔力封印の禁術で魔力を一部制限されているじゃない。というか制限していてなんでこんなに規格外な魔力なのよ、意味わかんない」
ごめんなさい、私もさっぱりです。え、そんなに量がやばいんだ、というか禁術って何!? 響きからしていかにもやばそうな代物じゃん、そんな物掛けられた記憶ないんだけどどういうこと。
「その様子、本当に自覚がないようね。禁術師の知り合いじゃないならなんでもいいわ、物凄くなんでそうなっているのか気になるけれど、どうせ学生生活で毎日会えるもの。ゆっくり解明していくことにする、あなただってそんな禁術を知らない間にかけられて、そのまんまにされているなんて嫌でしょ」
いや、そりゃ嫌だけど。意味わからない魔法がかかっているって怖いし。でも、できたらぼろを出しそうなのでそんなに人のことを気にしないで!! とはさすがに言えないんだけど。なんだか始まりから前途多難が気がして仕方ない。
なにはともあれ不安に満ちた学生生活いよいよスタートです。