魔法のイメージは何よりも大切
「じゃあまずは、日常で役に立つ魔法から使おうか。ロ・ボアール……、そんなにぎょっとしなくても大丈夫だよ魔法を使おうと思ってなかったら、唱えても魔法は発動しないからね。」
そうでした、魔法についていまいち頭に入らないなぁ、想いの力が必要なんてこと忘れてドキドキしていた。まぁ、基本の魔法みたいだしもし唱えても危険ではないんだろうけど。
「これは飲み水を出す魔法だよ」
やっぱり安全、そして便利、尚且つ水道代節約。
「次は、プティ・フラム。ろうそくに火をともす程度の魔法だよ」
ガス代節約。というか魔法の国にガスなんて物自体がない気がする。うーん、どこまで常識が違うのかものすごく気になるところ。常識の違いを気にしている間もリュウシュン先輩の説明が続く。せっかく説明してくれてるのだから聞き流しちゃいけない。リュウシュン先輩の説明に耳を傾ける。説明を聞くとどうやら随分といろんな種類の魔法があるらしい。そよ風を出したり、草を生やしたり、土を数センチ盛り上げる魔法だったり。科学で何かをするよりも随分簡単にいろいろできるものだなぁと思う。
「基本的な魔法は大丈夫かな。近くの公園にいこっか、実際に魔法を使ってみたほうがいいだろうし、さっきみたいな基礎魔法じゃなくて試験の時は、別の魔法を使った方がいいだろうから」
確かに、試験と名がつくから、もう少し応用的な魔法のほうがいいかもしれない。言葉に甘えてもう少し魔法について教えてもらうことにしリュウシュン先輩についていく。少し歩けば公園らしき場所についた。
え、公園じゃないのかって?
いやだって公園って、あれでしょ。砂場とか滑り台とか、ベンチとかブランコとかがあって小さい子たちが騒いだりしているのが私のイメージなんだけど。
目の前の公園はただの何もない土地。公園に来た人が思い思いに魔法で椅子を出したり、サラサラな砂を出したり、泥団子を出したりしている。
というか、魔法の泥団子合戦凄いんだけど。一気に大量の泥団子が生成されて、風の魔法かなんかでいっきに相手に向けて発射されている。これが子供の遊びなの? すごく服が汚れてるし、洗濯がたいへんそう……、あ、汚れても魔法ですぐに服綺麗にできている。あの魔法はちょっと知りたいかも、カレーとかが散った時にものすごく便利、ってそうじゃない。はぁ、公園にさえ私の常識は通じないのか。
「ミリアルちゃん、驚いたような顔をしてどうかした?」
やっぱりこの国の常識だと、こういう公園の風景っていたって普通なんだろうなぁ。少し顔を引きつらせながらも何でもないですと答える。うーん、これだけ常識が違うとなると、これから先ボロを出さずに生活なんてできるだろうか? きっと無理な気がする。
「ん、そぅ? じゃあ魔法の話に移ろうか。試験で使えたらいいねレベルの魔法を実際に使ってみよう、使う魔法はこれだよ、アーブル・クロワサンス」
実際にお手本を見せながら唱えてくれる。リュウシュン先輩の前に木が生えてきた。木が生える魔法のようだけれど。うん、これがあったら科学の国の緑化問題が一気に解決するね、魔法って凄い。
さて、私も魔法を唱えないといけないけど、うまくいくかな?
「アーブル・クロワサンス」
木が生えますようにと想いながら魔法を唱える。無事にうまくいったのか土から木がにょきにょきと生えてきた。おぉ、魔法上手くいくとなかなか達成感があるなぁ、お家で魔法使ったのは事件が起きてパニックになったからね、やっぱりうまくいくと全然違う。
いい感じに成長してリュウシュン先輩の木の高さを追い抜いた。
どこまで成長するかなぁ、うーん、しかしこの伸び方なんか昔本で見たな。確か木に登って空の上まで行くんだよね、思い出したジャックと豆の木だ!
あ……、そんなことを考えてしまったら、すごく早いスピードで空をめがけて伸び始めた、やばいほんとにジャックと豆の木になってしまう。
「ストップストップ!? ミリアルちゃんいったい何を想像したの!? いったん頭を空っぽにして、なんにも考えたらだめだよ」
リュウシュン先輩の言葉に冷静になれば、いったん思考を止める。そしたらちゃんと成長をやめてくれた。ふぅ、危ない。これ私ほんとにちゃんと魔法扱えるようになるのかな? 魔法を使えば使うほど失敗が積み重なって不安になっていくのだけれど。
「成長止まった……、ほんとミリアルちゃんの魔力凄いね。普通ここまで大きくはならないんだけど、ミリアルちゃんの魔力が強いから大きくなりすぎちゃったね。次からは魔法の規模もしっかりイメージしながら使ってみようか。ミリアルちゃんほど魔力が強いと安全な魔法も危険になっちゃうみたいだから、どんな魔法使うときもイメージするのを忘れないようにね」
いや、ほんと面目ない。うーん、この頭の中で色々考える癖をやめないと魔法というのはどうにも危険になるのかもしれない。今度は木のサイズをしっかりイメージして、余計なことは考えずに魔法を使う。
次に生えてきた木はちゃんと常識的なサイズをしていた。
「うん、ばっちりだね。最初はびっくりしちゃったけど、ちゃんとイメージができれば魔法を使うセンスもいい感じだね。しっかりと練習すれば魔力量は十分すぎるほどあるし、偉大な魔法使いになれるよ。ルルア・ミーレンみたいな魔法使いにね。」
ルルア・ミーレン、どちら様でしょうか? え、まずい、知らなきゃいけない人? 教科書に載るぐらい偉い人だったりする?
「ミリアルちゃん、もしかして知らない? うーん、ミリアルちゃんどういう生活してきたのか凄く気になってきたけど、まぁいいや。ルルアは、ソルセルリー学園の創立者だよ、歴史上最大の魔法使いと言われていて、魔法で寿命を無視して若いまま生き続ける事さえ可能だったんだよ、この国が出来上がるより前からずっと生き続けたといわれている。最後はとんでもない罪を犯して追放されて消息は分かっていないんだけどね。とんでもない罪が何だったのかについても、王様は知っているんだろうけど僕ら平民は知らない。まぁ、こんな人だけど、いまだにルルアを超える魔法使いっていうのは現れていないんだよ」
やばい、めちゃくちゃ怪しまれてしまった気がする。少し冷や汗をかきながら様子を窺う、とりあえず疑問はスルーしてくれたらしい、助かった。……これ、もう少し知識をつけないとばれてしまうのは時間の問題だよね、ここの常識を早く覚えなきゃまずい。とりあえずルルアがすごい魔法使いだということは覚えたよ、うん。
「あ、話していたら陽が沈んできちゃったね、あんまり遅くなってもいけないしそろそろ帰ろうか。帰り道は大丈夫かな?」
恐らく多分きっと!! ここから私の家がある湖は見ている、これでたどり着かないとか方向音痴のレベルじゃない気がする、きっとだどり着く、恐らく多分どうにかなる。
なにより湖の中が自分の家だと告げることに抵抗がある、魔法の国を歩いてわかったけど、魔法の国でもあの家は常識的ではなかった。
心配するリュウシュン先輩をどうにか説得してそのままお別れをする。
ようやく一人の時間になれた、うーんこの先が何だか思いやられるなぁ。でも今日は疲れてしまったし、常識の勉強はまた今度にしよう……。夕暮れ時の道をのんびりと歩いていく、風がひんやりとして空気が澄んでいる。汗が風で冷えて少しだけ熱が取れて気持ちいい。こういう自然が豊かなところは、科学の国と違うけど好きになれそうだった。
なにはともあれ、私もぅ全く違う場所に来てしまったんだなぁ。そんなことを思いながらゆっくり湖の中に潜っていった。