廻る感情、弱い私(クラファレス視点
クラファレス視点での話になります。
初めは軽く過去編になっています。
流されるだけの人生だった。
私は、ただの空っぽの人間だった。
泣いた、悲しんだ、怒った、呪った、憎んだ、恨んだ、喚いた、喚起した、喜んだ、震えた。
そして、絶望した。
「クラファレス、こんな簡単な魔法もできないの! もう七つになるのよ、一つも魔法を使えないだなんて」
今日も魔法が使えなかった、私は出来損ないらしい、魔力があるのにどうしてか魔法を扱うことができない。
親の深いため息に泣きそうになる、親にそんな表情をさせてしまうことがたまらなく悲しくて。
何日も何日も、魔法が使えない日が続く。親のため息が増える、周りに後ろ指をさされる。
なんにもできない自分に苛立って、後ろ指を指す人を何度も心の中で呪って。
次第に歪んで、自身に向けていた怒りは親への憎しみ、恨みに代わって。
喚いてお家を抜け出して、どうせ使えないならと、すべてを投げ出した。
お腹がすいた、なんにも食べていない、知らない森まで来てしまった、心細い。
でも魔法が使えない私が戻って、また使えない中無理に練習させられて焦るばかりで。
もう、そんな日々には疲れてしまった。
「泣いてるの?」
「あなたお腹すいている?」
いつの間にか目の前に見知らぬ二人の少女がいた。
少女といっていいのか、二人は人間は違った雰囲気があって、どこまでも優しい目をしていた。
なぜだか涙が止まらなくてどうしようもなくて、久しぶりに泣いて涙が枯れるまで泣いて、いつの間にか泣き疲れて、二人の少女はずっと私の頭をなでてくれていた。
「そんなに泣いてどうしたの?」
「なんだか悲しそうなの」
落ち着いたころを見計らって二人は声をかけてきた。
初対面なのに不思議な安心感があって、気づいたら口から言葉が。
「私は、魔法が使えない。出来損ない、だれからも必要とされない」
うつむきながら言えば二人は困ったように顔を見合わせる。
「教えてあげなきゃかわいそうなの」
「でも、教えたらこの子はきっと使命を果たそうとする、それは苦しいこと」
「使えないままでもこの子は苦しんでいるの」
なにかしっているのだろうか、二人は何やらい争っている。
私にはよく意味が分からない。しばらく二人の言い争いを見つめると、決意したようにこちらに向き直り口を開いた。
「あなたは、優秀な魔法使い、とても貴重で大切な。魔法を使えないのは、あなたが自分の使命を知らないから。使命を知ればあなたは魔法を扱うことができる。あなたの使命は調和を保つこと、世界の理を理に逆らう人から守ること。それがあなたの運命」
「私たちがあなたを導くの。私と契約をするの、私はミュート。調停者を導く精霊なの」
「私と契約を。同じく調停者を導く精霊、シュライン」
調停者、精霊。いったい何のこと、理って頭がぐるぐるするまったく理解ができない。
「この世界には何人か調和を守る人間がいる、そのうちの一人があなた。調和は、人の生死で崩れる。人が人を殺してはならぬ、人が人を生き返らせてはならぬ、それらを許容すれば世界の調和は崩れ、争いと悲劇が起きるであろう。調停者は、この調和を守るために調和を崩した人間を殺すことができて、その殺すことがあなたの使命。使命に逆らえば、あなたは、本当に魔法が使えなくなる」
殺す? 私が人を殺すの?
でも、それでもう馬鹿にされずに済む? 役立たずじゃなくなる? 生きていることが許される? 親に愛してもらえる? 他の人に愛してもらえる?
「契約する、私調停者になる。それで魔法が使えるなら、それが私の存在理由なら」
「契約成立なの、じゃあ家に帰るの、きっと心配しているの、みんなに教えてあげるのあなたはいらない存在なんかじゃないって」
精霊に言われるままに村に戻る、精霊が姿を現して言葉を紡ぐ。
「この子は調停者。今、その運命に目覚めた」
「私たちは調停者と一緒に生きる精霊」
精霊たちの言葉を聞いて、馬鹿にしていた人間がみるみる青ざめていく。
親は喜び私を抱きしめて、久しぶりのぬくもりに愛情に、喜びで心が満たされていく。
私は選ばれた人間、きちんとこの世界で必要な人間。
その事実が私を心から安堵させた。
次の日から生活が変わった、誰しもが私を褒めたたえ、誰しもが私を敬い、親も私を敬う。
見下されて生きてきた私にとって、それはひどく気持ちがよくて。
いつしか周囲を見下して、理に従って外れたものを殺す。
私は正しい、私は強い、私は周りの人より偉い。
・・・間違えだと気づいた時には何もかも手遅れだった。
もうすでに、何人も殺した後だった。
正気になった瞬間震えた、目の前で私が殺した人がいることに。
殺したのが私だという事実に、目の前の血に怯えて。
でも後戻りできなかった、役目を放り出せば魔法の使えない役立たずな私が残る。
また、見下されて、失望されて、生きる意味をなくして。
そんな日々がどうしようもなく怖くて。
絶望した私に、シュラインが役目を放棄するように説得を始める。
私はその言葉に耳をふさいで逃げ出した、ミュートだけは悲しそうな顔をしながらもずっと側にいてくれた。
シュラインと疎遠になってから、学園を入った。理から外れた人がいないことを願った。
願ったのに叶わなかった。
今、私は何をしている? 逃げている、また逃げている。
助けてもらったのに逃げている。
どこまでも弱くて愚かで、わたしはずっと周囲から逃げているように見せかけて、弱い自分から逃げていたんだ。
「また逃げるの? ミリアルちゃんはあなたを助けたのに? あぁ、それから今、リュウシュン先輩たちがミリアルちゃんを助けに行ってるから、ミリアルちゃんは死なないよ。あなたは本当はどうしたいの?」
たしか、ミュアさんだ。魔法で幻覚を作ったのに解除されている!?
結局私は、魔法が使えても平凡な人間でしかない。すべての属性がつかえても誰にもかなわない。
「見捨てるならそれでもいいよ、私はなんにも言えない。でもなんにもないよ。誰かを殺した後に残るものなんて」
私はどうしたい・・? どう生きたい? 本当は。
「クラファレスは優しい子なの、大丈夫私もついてるの、一緒にシュラインにもみんなにも謝ってあげるの、馬鹿にする人たちは吹っ飛ばしてあげるの。だから、助けたいなら助けたらいいの、魔法が使えても使えなくてもずっと一緒なの」
「私は・・助けたい」
「なら、早くいくよ! リュウシュン先輩たちに加勢、ほら走る走る!!」
見下されても、無能になっても、罵られたって。
もう逃げない私になる、裏切らない私になる。
走る足が加速する、懐かしい魔力を感じる。
「わたしだってちゃんと側にいるから」
シュラインだ。どうして気づかなかったのか、大切な二人に。
「あそこにいる、回復魔法と攻撃の防御で精いっぱいみたい。クラファレスの最後の魔法、貴女の決意、私は見ているから」
理から外れた人間を助けるために魔法を使えば、もう二度と魔法は使えない。でも、シュラインの言葉が後押しとなって止まりはせず、魔法を唱える。
獣が氷漬けになる、魔力の感覚が体から消えていく。




