精神転移
「良かった、ミリアルさん、起きて、くれた。あ、あのね、薬、飲んだ。呪い消えた。だからありがとう」
どうやら、薬は無事にルリアルさんの手元に行き、飲んだらしい。
いや、それは喜ばしいんだけど何で私は保健室に?
「覚えていないミリアルちゃん? 君たちは洞窟から出てきたよね。なんかビアンカさんが笑っていたり、ミュアさんが焦げていたり不思議な状況だったけど、僕は洞窟の爆発が気になって、皆に近づいた。その矢先だよ、ミリアルちゃんが倒れたのは。ビアンカさんが頬を連続で叩いて起こそうとしてたから、それを僕が慌てて止めてここに連れてきたんだけど」
んん? ビアンカさんなにしてくれようとしちゃんてんの?
リュウシュン先輩ありがとう、私のほっぺたは守られた。ってそうじゃない、だって、洞窟から出た後、確かすぐにビアンカさんと別れて。
「そこの、なんだっけとりあえず先輩、書いてあったわよ、本に」
悩んでいたら、焦げたミュアさんを焦がした本人が担ぐと言うシュールな姿でビアンカさんがでてきた。
「うん、やっぱりか。ミリアルちゃん今記憶がぐちゃぐちゃで混乱しているんじゃないのかな。それは魔法のせいなんだ。誰かからミリアルちゃんは、精神転移の魔法が使われた。そしてミリアルちゃんは、一時的にパラレルワールドに飛びこんだ。でも、この魔法はかなり多くの魔力を消費する。だからパラレルワールドはすぐに崩れたんじゃないのかな。その先、あぁごめん、混乱しているみたいだね」
その、なんとかワールドも分からない上に、精神転移なんて初めて聞いたのですが。
「一個ずつ説明しよう。まずは精神転移魔法。これは星系統の魔法。星系統は非常に範囲が広くて説明が難しいんだけど、主な魔法は占い。個別に特定の印をつけてそれを使って占う、星占いといわれるもの。ようは個人の進む道が吉か凶かを知る事ができる。ほかにも、星を時間というとらえ方をして、空間を歪めて時間の流れの違う場所へと連れていける、これが精神転移というもの。ただし歪めた空間に入っていけるのは精神のみ。肉体が入ってしまったら、肉体がぐにゃって曲がっちゃうらしいね」
ぐにゃって。効果音可愛いけど、言ってる事可愛くない。
「それで次は世界の話だね。この一つの世界には、科学の国、魔法の国、魔族の国の三つしかない事は知っているよね。僕達が関与できる三つの国があるのがこの世界だ。でも、こんな話があるんだよ。僕達が関与できない、僕達が今いる世界とは全く違う世界が存在しているという話。実際、賢者はこの全く違う世界から、何らかの形でやってきたのではないかと言われている。パラレルワールドは、こういった別の世界の話。といってもパラレルワールドは、僕達が関与している世界に限りなく近く、パラレルワールドには僕達のそっくりさんがいる。そして、そのそっくりさんは僕達と違う行動を取り、違う未来の世界を作る」
ううんと、つまりは、パラレルワールドというのは自分たちの住んでいる世界とほぼ同じだけど、微妙な違いのある世界ということかな。それは私たちのそっくりさんが私たちとは違う未来を作っているから。私が迷い込んだパラレルワールドは、ビアンカさんのそっくりさんがすぐに帰ってしまうという選択をした世界。
「研究者の中には、パラレルワールドに住む人たちは自分たちと全く同じ人たちで、自分がもしもあの時に別の行動を取っていたら、どんな未来が待っていたのかという、もしもの世界であると言っている人もいるけどね。まぁ、ミリアルちゃんは精神転移という魔法でこの世界に比較的近くて空間を歪ませたらすぐに行くことのできる、あまりこの世界と未来の変化のないパラレルワールドに迷い込んだ。その世界に入って少しして、精神転移を使った人の魔力が尽きて、この世界とパラレルワールドの間の空間の歪みに迷い込んでいた」
少年と会った場所が空間の歪み。少年が私に精神転移魔法を。
「もしも、空間の歪みに精神が留まって、歪みと一緒に精神も歪んでしまったら、ここにいるミリアルちゃんは精神が無いから目覚めない。そこで愛の系統のルリアルさんの出番」
ん? なんだかさらっと恐ろしい事を言われた気が。つまり私は、ずっと寝たきりになっている可能性があったと!? おい、何処の誰かか知らない少年、なにが助けるだ、死にかけていたんですけど。
「愛の系統の魔法で、精神転移魔法を逆算。僕達は魔法を発動させるのに特定の魔力を法則にしたがって出している。その法則を逆から辿って行くと、魔法の解除ができる。魔法の解除は愛系統の専売特許だよ。まぁ、魔族が使う魔法は魔族しか分からない法則があるらしいから解けないらしいけどね」
つまり、ルリアルさんを救うために薬を取りに行ったのに、そのルリアルさんに助けられてしまったと。
かっこ悪い!! でもありがとう、助かった。
「あの、今度、お礼、させてください。ビアンカさん、ミュアさん、ミリアルさんと、もっと話してみたいと思って、だから、その、今度昼休み、一緒に食べて、放課後は、手作りのお菓子を、作るから、それ食べてもらえたら」
お礼なんて、むしろ私が救われたんですが。そうだ、私もクッキーをつくろう。




