分からぬ境目
木の傍で生活を始めた人々はやがて、特殊な力を持つようになりました。
それが、お姫様から引き継がれた魔力。
その魔力を使って水の担い手は泉を守り、木を育て続け続けると、やさしい風が通り過ぎ、砂漠の土が運ばれ、命の灯火ができました。
命の灯火は、様々な姿に変わり人の前に現れて共存して生きて行きました。
その存在は賢者。賢者は歌い自らを誕生させた水の担い手も賢者であると讃えました。
それから何年もの歳月が流れ、人々は賢者と自身の持つ特殊な力を悪用し始めました。
新しい灯火は消えて、水は渇き、風は冷たく吹き、土は別の場所へと運ばれて行きました。
人々が創り上げた魔物は暴走し人里を襲い、賢者たちは姿を消しました。
それでも愚かな人々は、過ちを認めず新たな過ちを重ねていく。
やがて世界は崩壊を始めた。
そこに再び賢者は現れ、賢者は世界を二つに分けました。
一つは、特殊な力を忘れたものが住む国。
一つは、特殊な力を覚えているものが住む国。
そして賢者は、姿を変え二つの国が再び過ちを起こさないように監視の役割をしました。
いつしか賢者は、精霊と呼ばれる存在になり、その存在は神に等しいものと思われ、精霊に従い生きていく人々は数千年に及ぶ平穏な世界を送りました。
「それでも、人々の記憶は脆く、欲は何処までも強い。お姉ちゃん、このあとどうなったかわかる?」
暗闇の中私は、少年と共にこの世界の歴史を見ていた。長い夢だと思った。
夢じゃ無くて、この少年が私にこう言ったものを故意に見せているのだと気付いたのは、少ししてから。
リュウシュン先輩が私の名前を呼んでいる、現実の世界から。
それでも私は、足が闇に捕らわれてしまったかのようにこの世界から抜け出せなかった。
「このあとね、少しづつ歴史は忘れられていったんだ。そして現代、二つの国は順調に力を伸ばしてしまい、火種が散り始めた。これから先に起きるのは、戦争なんだよお姉ちゃん」
「違う、戦争なんて起きない。科学の国と魔法の国が分かりあえる未来だってある。私は・・・」
科学の国が大好きだ、科学の国の友達が大好きだ。
魔法の国は憎かった、魔法の国の人を怨んだ。
それでも今は、好きになれた。ふざけた友達に毎日だと思う。それでもそんなふざけたここが大好きだ。だから、きっと分かりあえると思う。
「無理だよ。お姉ちゃんみたいな人は少数派なんだ。多数派は、戦争がしたくてしたくてたまらない。少数派が勝てる未来は来ない、戦争が回避できる未来だって来ない。でもねお姉ちゃん、この世界は幸いにも、二つだけじゃないんだ。もうひとつの国がある。それが魔族の国。僕と一緒に魔族の国に行こう。大丈夫お姉ちゃんは正式な魔族ではないけど、僕がいればなんとかなるよ。そして世界を変えるんだ。世界を再び一つにする。僕らの手によって」
世界を一つに? どうやって世界を一つにする気なの。
「滅ぼすんだよ、邪魔なもの全て。そうしたら再び平和な世界が訪れる。お姉ちゃんだからこっちにおいで。そこにいたら死んじゃうよ。こっちに来るなら僕がお姉ちゃんを守るから。僕は強くなったんだ昔よりずっと。だからおいでお姉ちゃん」
「行かないよ。科学の国には親友がいる。魔法の国にだって友達ができた。大切な家族だって魔法の国にいる。私は戦争を起こさせない。戦争が起きない未来をつくる。二つの国が分かりあえる未来をつくる。過去は変わらなくても未来は作れる。」
「帰るにゃ、大丈夫お前さんにゃらこの闇から抜けられるにゃ」
ちょ!? いつのまにか隣に猫精霊がいるのですが、何処でも出て来るな本当に。
「そんな突っ込み入れてる場合じゃないにゃ」
はい、その通りです。
「分かったならいいにゃ。じゃあ後に続けて唱えるにゃ。エスポワール・クロワール」
「エスポワール・クロワール」
闇から光が差し込む。何時の日か見た初の日の出。
その光景が頭に浮かんだ。そこにいたのは一体誰だったのか。そんな事を思いながら寂しげな少年の顔を見て意識を飛ばした。
「ミリアルちゃん! しっかりして」
目が覚めたら私は学園の保健室にいた。リュウシュン先輩が近くにいて、ルリアルさんも傍にいる。
何処までが現実だったんだろう、洞窟を出てからの記憶があやふや。
ミュアさんに確かめておこうと。そういえばミュアさんの姿が急に消えたと思ったけど、あれは現実だったんだろうか、闇だったんだろうか。
今は、なにも分からない。




