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夜の思い出

「おっそーい!! 今何時だと思ってんの!? 22時だよ。何してたの、心配してたんだよ!」


リュウシュン先輩に送られて、扉を開けてミュアからの一言。

なんか前も言われた気がする。


「はぁ、何でこんな遅いの。早く就寝準してよ。遅いと先に寝ちゃうからね」


と言いながら毎度毎度待っててくれるミュアさんは優しいよね。


「ありがとね。ただいま、すぐ寝る準備するから」

「そうだよ! ドラゴンと戦うんだからしっかり寝て万全な状態じゃないと!! ミリアルちゃんが頼りなんだから」


これで無茶ぶりをしてこなかったら、本当に良い人柄だと言えるのですが。

思わず苦笑いしながらも、待たせているのは悪いので急いで就寝準備をする。


「終わった? 明かり消すよ。おやすみなさい」


夜は深まって行く。声を合図に目を閉じる、ドラゴンとの戦いで疲れているのか眠ったのはあっという間だった。


カラン、と耳に音が入る。目を覚ますとまだ月が輝いている。

今はまだ深夜らしい。もう一度目を閉じようとする。


カラン、カラン。


まだ音がする。これは何の音だろう。

そっと体を起こして、魔法で光を出してあたりを少し明るくする。


って、あれ!? ミュアさんがいない。慌ててベッドから飛び降り部屋の明かりをつけ部屋を見渡す。

やっぱり何処にもいない。


扉が微妙に開いている、消灯時間過ぎてるのに何処かに用があった?

それとも、学園内であり得ないと思おうけど何かに巻き込まれた?


カラン、カラン、カラン。


まだ、音は鳴り続ける。これは一体何の音だろうか。


カラン、カラン、カラン、カラン。


音の事が気になりながらも私は部屋から飛び出す。

どっちにしてもこんな時間に部屋から出ていったのは心配だったから。


カラン、カラン、カラン、カラン、カラン。


廊下を走れば音が近くなる。目の前に紅くぼやける何かが目に入る。

あれは、本で読んだ人魂というやつだろうか。


魔法の国はホラーも飛び出してくるんだよ、きゃは!

じゃない、怖い怖い、ホラーとか無理嫌い勘弁!!


確か人を死に追いやったりするんですよね、あれかな、ドラゴンと戦う前の死亡フラグかな。

フラグいっぱーい。うわあぁぁい。


フラグおるのが間に合わない、何これ人生ハードモードすぎじゃない!?

何で魔法の国に来てからこんなつっこみばかりしているのかな私は。


カラン、カラン、カラン、カラン、カラン、カラン。


現実逃避をしている場合じゃない! なんか音近づいてきてるし。えと、こう言う時はなんていうんだ、悪霊退散? 南無阿弥陀仏? 南無妙法蓮華経? アーメン?


って私じゃどうにもできないって。逃げる逃げる、こう言う時は逃げるに限る!!


「ミリアルちゃん?」

「ふぇ?」


いよいよ人魂が私の名前を言って、魂でも奪おうとしているのかと思ったけど、これよく聞いたらミュアさんの声だ。人魂に見えたのは、カンテラ。


一気に脱力してへなへなとその場に座り込む。その様子を心配そうに見て慌てて駆け寄ってくるミュアさん。本当に人騒がせです、私が。


「こんな時間に出歩いてどうしたの? それより立てるミリアルちゃん。何で涙目に」

「こっちのセリフだよ。何でこんな時間に、心配だったから探しに」


心配していた事を伝えると途端に嬉しそうな顔をして、何この可愛い子と言いながら抱きついてくる。

ちょ、おまっ、胸。私よりしっかりボリュームある、喧嘩売られているんだろうか。いや、違うんだろうけど。


「えへへ、心配掛けてごめんね! 大した用事じゃないんだよ。それより早く帰ろ帰ろ!!」


そのまま、ふくよかなものが離れると腕を掴み立たせてくれる。

思いのほか足に力が走らない、面目ない、ホラーは凄く嫌いなんだよ。


自分の様子をくすくす笑いながら見ているミュアに、少し口を尖らせてやるともっと笑いだしている。

私もなんだかおかしくなって噴き出す。ホラーは嫌だけど、こんな夜の思い出は悪くないと思う。


「ただいま、じゃあ寝ようかミリアルちゃん」

「おやすみなさい」


こんなくだらない時間がずっと続けばいい、そう願った。

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