星空
改めて自己紹介をした後、立ち入り禁止エリアを殿下の後ろを歩きついていく。
「この先で見た事は誰にも話すなよ。この先は奴隷たちがいる場所だ。私は毎日通って、内緒で休憩の時間を取らせている。国に供給される魔力が減ると国に、奴隷が休んでいるのがばれてしまうから、その間は私が代わりに魔力を供給している。あとは食事の配布だ。あんまりまともな食事が取れてないらしいからな」
殿下が喋り、その間に扉の前に辿り着く。
殿下は解錠の魔法を唱え、って便利だな。金庫もカギも意味をなさないじゃないか。
がちゃりと、扉が開く音がする。脆い扉だなぁと思ったら、一応開けれる人に制限はあるらしい。
少しだけ安心した。
中に入ると、そこにいた人は謎の装置を取り付けられ、魔力を搾りとられていた。
皆、顔色が悪く環境が劣悪な事が一目でわかった。
殿下はそれを苦しそうに見つめながらも、装置を外し食料を配布しながら、奴隷が休んでいて魔力の供給されていないのをばれないように自分の魔力を差し出している。
「おーじさま。毎日毎日こっちにきて、おっきなひとに怒られないのー?」
6歳ぐらいの幼い子まで誘拐されていて、どうしてこんな事が出来るのか怒りが湧いてくる。
「あれ、ミリアルお姉ちゃん? どうして? あ、ミリアルお姉ちゃんもゆーかいされちゃったの? だいじょうぶだよ! おーじ悪い人じゃないの」
んん!? よく見たらこの子、科学の国で近所に住んでたユンちゃん。よく面倒を見てあげて、いやぁ懐かしいなぁ!!
まずい、科学の国にいた事がばれる。
ギギギと、音がしそうな感じに振り向き殿下の方を見る
「ミリアルお姉ちゃんとやら、事情の説明をしてほしいのだが?」
あ、やばい。もうばれてる。誤魔化しようがないよ。知り合いがいるとは思ってなかった。こっちに来てから知り合いが誘拐されてしまっていたんだ。
「ナンノコトデショウカ」
「誤魔化しても無駄な事は分かっているだろう」
はい、その通りです。仕方ないので腹をくくることにした。
私はこんな時の対処法を知っているのだ。
幸いにも殿下は奴隷たちに危害を加える気は無い、ならば、逃げるが勝ち!
「ヴァン・シェーヌ」
全力疾走で逃げようとしたら、殿下の魔法の詠唱が響く。
風が足の周りに渦巻き足が動かなくなる。そこに殿下が、それはそれは素晴らしい笑顔で詰め寄ってくる。
笑顔で追いつめる殿下は、間違えなく腹黒だった。
「誰が逃げろなんて言った?協力者君。それに、私の言葉を無視するとはいい度胸だな」
「分かった、分かりました!! 説明します!!」
だから、そんな黒い笑顔を向けないで。本気で怖いから!?
「私は、科学の国から来ました。科学の国の人は魔法が使えないはずなのに、私は魔法が使えてしまったから。この国に来たんです」
「逃げる前に素直に言えって。はぁ、科学の国の人は魔力はあっても魔法は使えないはずなんだがな」
科学の国では、科学の国の人は魔力が無いから魔法が使えないと聞いていたんだけど。どういうことだろう。
「ミリアルお姉ちゃんまほーつかえるの!? すごい、ユンもつかえるかなぁ」
科学の国の人は、魔法についての偏見があるけど、ユンちゃんは目を輝かせながら見ている。
小さい子って純粋で可愛いなぁ。
「いや、無理だな。科学の国の人が魔法は使えない。科学の国の人の中にある血に、魔力があっても魔法を使えないような成分が含まれている。歴史的な問題で、魔法の使い方を忘れさせられたのが、科学の国の人間だ。でも、それならミリアルが魔法を使えるのはなぜだ?」
そんな事を言われましても、私も自分が魔法を使えるなんて事に驚いているぐらいだから分かるはずがない。
「お前、科学の国に住んでいただけで、本当は魔法の国の人じゃないのか?そうでなければありえない話になってしまう。最も、魔法の国の人間が科学の国に行くこともないとは思うのだが」
そんなわけない。私は魔法の事なんて全然知らなかったし、お母さんだって科学の国の人で、事故で死んだお父さんだって科学の国の人。親が私に嘘をつく理由なんてないはず。
「いや、不自然だよな。魔法の国の人が科学の国に住むのは。まぁ、どっちでも構わないか。大事なのは私と国を変える気があるかどうかのほうなんだから。そろそろ見回りが来るな。皆すまない。また来るから、それまで堪えてくれ」
「うん! おーじも、おねえちゃんもばいばいー!」
殿下に引っ張られ、知り合いに見送られ、強制労働部屋を後にする。
外は、既に星が見え始めていた。闇夜に光る星。
科学の国は大気が汚れすぎて綺麗な星が見えない。
だから、この国でないとこの星空は見れない。それでも、この星空は懐かしい感じがした。
私は一体何者なんだろう。