国の制度
そこは、さすが有名な学園だと言わざるを得なかった。
夕日が差し込む図書室は、一体何年あれば読み切れるんだろうと思うぐらいの量の本がある。
でも、これだけあるなら知りたいことを知れるだろう。
ごくりと唾を飲む。私はこれから、多分知りたくない事を知るのだという嫌な予感が渦巻く。
それでも、一歩を踏み出し図書室に入る。本独特のにおいがするそこは、未知の世界のように思えた。
未知の世界を歩み、未知の本を手に取る。裏表紙値段は書いてない。
魔法の国に、おそらくお金という概念が無い。この国は一体どうやって成り立っている?
ふと目には、階級についての本が映る。関係ないと思いながらも、気になり手にとる。
魔法の国には、王族、貴族、平民、奴隷といった階級が存在する。
王族、大昔この魔法の国を作り上げたとされる血筋の者。王家の人間は強い魔力を持ち、代々国を統治している。
貴族、莫大な富と共に権力を持ち、時には王家を抜かす権力を所持した。近年の王の政策により奴隷が誕生。それにより、お金の価値はなくなり、貴族は権力を失い貴族という存在は無くなった。
平民、国に最も多くいる一般の人々。基本的に食料などの必要なものは全て魔法で生み出し思い思いに暮らしている。一部、国の未来の為に働いている人がいる。
奴隷、近年の王の政策により現れた存在。通称ファクティス。ファクティスは、科学の国に行き秘密裏に誘拐した人、取引により奴隷にした人などだ。ファクティスは、立ち入り禁止区域にて、魔力を搾りとられ続けている。その魔力が、道路の整備、医療機関、教育機関、など国に必要なものに使われている。
ちょっと待って、奴隷? 科学の国から誘拐? 確かに科学の国では、行方不明になる人が数多く存在していた。原因はわかっていなかったけど、その原因が魔法の国。
そんなふざけた話があるのだろうか、あっていいのだろうか。
魔力を搾りとられ続けた人はどうなるんだろう、それより、科学の国の人の魔力を取っているってどういうこと? 科学の国の人も魔力を持っている?
そんな馬鹿な、ならどうして誰も魔法を使わずに、魔法の代わりに科学文明が発達したの。
確かめなきゃ、科学の国の人が魔力があり搾りとられていて、自由を奪われているなら、すぐにでも助けなきゃ。悲しんでいる家族が沢山いる。
本をしまい、奴隷というショックでふらつきながらも立ち上がり、昨日迷い込んだ立ち入り禁止区域へと足を進める。
改めて見るとかなり不気味に感じた。誰も立ち入らない校舎は暗く、奥に進めば、立ち入り禁止と堂々と書いてあり、無許可での侵入は法で処罰されるとある。
少し躊躇いながらも、真実を知るため決意を固め足を踏み入れる。進んでいくと地下へと続く階段があり、そこを降りようと段差を見た。その時。
「おい、そこで何をしている」
聞いた事のある声が後ろからして、慌てて振り向く。そこにいたのはロワ殿下で、鋭く私を睨みつけている。
その目を見ていると、自分の心が荒れるのを感じた。王家の人間が、科学の国の人の人生を奪っている、絶対に許せない、そんな気持ちが渦巻く。
それでも、何とか深呼吸をする。感情的になってはいけないと言い聞かせた。
「殿下こそ、こちらでなにをしていますの?」
立ち入り禁止区域に入ってはいけないのは、殿下も同じだろう。すこし自分の口から冷たい声が出ている事を自覚しながらも、睨みつけている殿下をまっすぐ見据えて聞いてみる。
「私は、政治に対する疑問を解消しに来た」
「一体どのような疑問を?」
この先には一体何がある、殿下はすこしでも、科学の国について考えているのか。
探るように目を逸らさず見ている私の瞳に映る殿下の顔は何故か酷く悲しげだ。
「多くの人が支持する奴隷制度についてだ。先代王がその制度をつくり、現国王、つまり私の父が続けていて民が支持しているこの制度。王である父は正しいはずだ。でも私の中にある本当に正しいのかという疑念が晴れない。ふっ、おかしな話だろう。お前も他の人と同じ意見で、奴隷がいるべきだと思うか」
その顔は苦しそうで本当にそう考えているようで、少し自分の心の壁が崩れた。
殿下から視線をそらす、どうして魔法の国の人が皆敵だと思っていたのかと、後ろめたい気持ちになったから。それでも、もう一度目を合わせる。大事な事を伝えるために。
「殿下、無礼を承知で申し上げます。この奴隷制度を私は消し去るべきだと思っています」
私の言葉に、殿下の顔は少し驚いたような、戸惑ったような表情をしていた。