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魔法の国の隠し事

 まぶしい日差しが、窓からベッドに差し込んでいた。チュンチュンと、小鳥の鳴く声が聞こえる。科学の国とは違い澄んだ気持ちのいい風が頬を撫でる。


 今は何時だろう……?


 まだ慣れない寮の、部屋の時計をぼんやりと眺める。


 時計の短針は8の数字を指していた。授業は確か9時からだったから、そろそろ起きないとだめだね。風が気持ちよく布団が心地いいからか、ベッドと離れたくないと思いつつもどうにか思いを断ち切り体を起こす。ちなみに今は何分なんだろう?


 起き上がりながら、何分かも確認する。長針は10の数字を指していた。つまりは、現在8時50分……。


「って、遅刻しちゃうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」


 入学して早々遅刻なんて絶対に嫌だ、というか授業初日から遅刻なんて絶対に悪い意味でみんなに覚えられてしまうし、目立ってしまいそうだ。慌ててベッドから降りて準備を始める。


「ううん、私まだ寝れる……むにゃ」


 寝言を言っている場合じゃないってミュアさん。私がバタバタしていて眠りが浅くなったのかミュアさんが、寝言を言いながら寝返りを打った。すっかりミュアさんのことを忘れていたけど、気づいた以上置いていくわけにはいかなくて、必死にミュアさんの肩をゆする。


「あと5日……」


 なんで5日も眠る気でいるの!? あなたは眠り姫かっての。というかこんだけゆすっていてどうして起きないのよ、どんだけ眠りたいんだミュアさんは。


「なぁにをやってるんだにゃあ。お前さんまで遅れるにゃあ」


 魔法の国に来て初めて会った猫の精霊! なぜここに、というかどうやって入ったの、窓から? 全然気づかなかったんだけど。


「驚くのは別にかまわにゃいが、早くしないと遅刻するにゃよ? 肩をゆするにゃんてのんきなことしていないで、光が得意系統だから光の魔法を使えばすぐに起こせるはなしなのに、にゃんで物理的に起こそうとしているにゃ」


 いや、自分の得意系統とか知らないし! そもそもそんな魔法があること自体が初耳だったよ。魔法ほんと何でもできるよね。


「仕方がないにゃ、真似して唱えるにゃ。頭にミュアが起きることをイメージしにゃがら、ス・ルヴェと唱えたらいいにゃ」


「ス・ルヴェ」


 繰り返すように唱えてみる。精霊は満足そうにその場を消えた。もしかしてわざわざ目覚ましの方法だけを教えにやってきてくれたのだろうかあの精霊。うーん、どうしてそのためだけに来てくれたのかさっぱりわからないけど。


「わっ!? 時間やばいじゃん! 起こしてくれてありがと、早く行こ行こ」


 魔法のおかげでがばっという感じに勢いよくミュアさんは起き上がり、超スピードで着替え準備を済ませた。これは相当に寝坊しなれた速さだよ。


 着替えが終わると、私の腕をつかみながらダッシュで廊下をかけていく。尋常じゃない速さ、そのおかげで遅刻をどうにか免れることができた。朝からの全力ダッシュに気持ち悪いけれど。出来たらもう少し余裕を持った学園生活を送りたい。


 そんなことを考えながら息を切らせつつ席に座ると、その直後ぐらいに先生が来た。本当にギリギリセーフだったらしい。


「みなさんおはようございます。さて今日は、魔力の系統について勉強します。魔法学基礎の教科書3ページを開いてください」


 魔力の系統? この前の自己紹介でみんなが言っていた得意系統に関係があるのだろうか。準備して持ってきた教科書を取り出し開く。


「教科書に書いてある通り、炎、水、風、地、闇、光、緑、音、雷、無、星、愛の12種類の系統の魔法が存在します。ただこの系統に関しては、古代にはもっと多くの魔法の系統があったのではないかと言われているので、もしかしたらまだ見つかっていないだけでたくさんの魔法があるかもしれません」


 見つかっているのが12種類。大丈夫、まだついていける。少なくとも化学記号に比べたらずっと覚えないといけないもの少ないし。


「さて、この12種類の系統から、炎、水、風、地、無の5種類は誰でも扱うことができます。精神から魔力が作られていることはみなさんご存じですよね。その精神から生成されやすい魔力がこの5種類なので、全員操ることができます。精神から生成されやすい理由としては、喜怒哀楽といった人間の基本的な感情に関係があるからではないかと考えられていますが、魔力のことは解明されていないことが多いので断言できません。また、この5種類は生成しやすい魔力ですが、どのくらい生成されるかというのは個人差があります。ほかの系統に関しては、その系統が得意な人以外、その系統の魔力の生成が行われないため得意系統でない場合、その系統の魔法を扱うことができません。例えば光系統の魔法を使いたいと思っても、光系統が得意系統でない人は光系統の魔力そのものが存在しないので、魔法が発動しないといった感じです。」


 内容が少し複雑になってきた、とりあえず魔力には個人差があるから、使えない系統のものもあるということだよね。


「こういった風に皆さんが生成しやすい魔力のことを得意系統といいます。さて、皆さんは自分がどの系統が得意であるかなんとなくわかっているようでしたが、まだわかっていない得意系統があるかもしれません。得意系統について説明した後、魔力測定石という、魔力について詳しく調べてくれる石で、皆さんの魔力を調べてみようと思っていますので楽しみにしていてください。では得意系統についての説明に入ります」


 これまで科学、特に物理とか化学とかが難しくて意味が分からないと思っていたけど、魔法ってもっと理解ができない。これまで学んできた内容と全然違うし、科学の国の常識なんて全く通用しないものだから、科学の国の授業って何だったんだといいたくなってしまう。


「得意系統の決まり方は先ほど言った通り、生成される魔力の違いからです。そしてその生成しやすい魔力というのを、人は通常1種類持っています。中には得意系統を2種類、ごく稀に3種類持っているような人もいます。しかし、4種類以上の得意系統を持っている人はいません、3種類の得意系統が人間が持てる得意系統の限界とされています。ただ、4種類以上の得意系統を持っている種族も存在していて、その種族は魔族と呼ばれています」


 魔族? 精霊に引き続きまたメルヘンチックなものが出てきたなぁ。


「魔族は、魔法の国でも科学の国でもない、隠されたもう一つの国に住んでいるとされていますが、場所の特定はできていません。魔族誕生の説は様々言われているのですが、今一番信じられているのは禁忌魔法と呼ばれる、甚大な後遺症があることや生命を歪める行為で人が扱ってはならないとされている魔法を扱い、精神改竄の魔法で、人為的に得意系統を増やされた子孫ではないかと言われています。実際に禁忌魔法の後遺症、感情の欠落がみられており、魔族は非常に残酷な性格をしています。魔法の国が一度滅ぼされかけた歴史さえあり、畏怖の存在として軽々しく魔族という種族について口に出してはいけないことになっています」


 んー、魔法や科学の国以外に国があったことを初めて知ったし、魔族の存在なんてほんと空想上の産物でしかないと思ってきていたんだけど、そんな危険な存在が実際にいるというなら、どうして科学の国では魔族について語られていないんだろう。いくら魔法というぶっ飛んだものが絡んでいるとはいえ、実在する危険なら知っておいたほうがいいだろうに。


「また、魔族は禁忌魔法を使ってできた存在ということや、全てを滅ぼすことができる危険性から、魔族を生み出したことは魔法の国の負の歴史とされてます。そういった事情で科学の国に対しては秘匿しているので、そういう面でも魔族については口に出さないようにしてください。ちょうどチャイムが鳴りましたね、得意系統を調べるのは次の授業でします、皆さん休憩をとってください」


 つまり、意図的に魔法の国によって、魔族の存在は科学の国に知られないように隠されている。残虐だと言いながら、全てを滅ぼす危険性があるといいながら、どうして科学の国に告げようとしないのか。敵国だから? 自国の恥だから? だったら魔法の国の人たちは一体科学の国の人の命を何だと思っているのだろうか。


 頭が強い衝撃を受けたように呆然としてしまい、すぐに椅子から立ち上がることができなかった。


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