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プロローグ

 ガキンと何かが擦れるような音がした。あぁ、またか。紫の髪の少女はうんざりとした様子で、少しうねったその長い髪をガシガシと掻いた。

 目の前にはたくさんの歯車が見えた、そのうちの一つがギシギシ音を立て歪な動きをしている。こういったものをほっておくと、他の歯車全体に影響を及ぼしてすべてが崩壊しかねないのだ。

 この世界は、そういう脆い組み合わせで出来上がっている、全てが崩壊するときにはそれは恐ろしい災厄が起きるのだ。


「取り除かなくてはならないわね」


 この歯車を失くして、他の歯車と組み合わせ流れを戻してしまえば世界はまた元通り、なんにも変わらない。

 ふっと後ろから人の物とは違う気配が現れる。私にとってはこの人ではないこの子たちのほうがずっとずっと感じ慣れた気配だ。


「もうすぐ会うことになるの。いつもいつもごめんねなの」


 人でないものは涙しながら私にそう語りかける。水のような柔らかい色をした優しい、大切な友達。

 この子はいつも申し訳なさそうに謝るのだ。歯車を直す役割を私に気付かせたことに後悔しているらしい、私は何も気にしていないというのに。もぅ、何も感じない。歯車を取り除くことに何の痛みも持たない。

 それが私の役割なのだ、そしてみんなが私に感謝をする。またひとつ災厄から遠ざかることができたと。真っ赤な血だまりを前に、綺麗になった世界を見て人々は涙を流し、首を垂れるのだ。


「間違えてるよ! あなただって気づいているでしょう? あなたがやっているのは人殺しなんだよ。ねぇ、止まってよ」


 後ろから、もう一人の人ではない子が言った。金色な綺麗な髪と瞳をもった私の大切なお友達だ。

 何度も何度も自分の背中に向けて悲痛な叫びが繰り返される、心がキリっと傷んだけれどそれにふたを閉めて、ゆっくりその子から離れて歩き出す。

 水のような髪の子は、少し迷った末に私についてきた。金色の髪の子は一人その場に置いていかれる。

 ねぇ、確かにあなたが言っている通り、私は気が付いているよ。この行為が只の人殺しだって。だからね、私はこの役割が心底嫌い、でもねだからってどうなるというの?


 私はこの役割に逆らわない、逆らえない。たとえそれが友を欺き、傷つけ、裏切るとしても。歯車は動き続けてしまうのだから、歯車がやがて流れを変えてしまうのだから。


 それにね、もう一つあなたはこんなことでそれを見出す必要はないと叫ぶでしょう。それでも、私にとってはほかの何よりずっとずっと大切なの。


 間違いでも、愚かでも、裏切りでも、滑稽でも、無様でも。

 生きる理由が何よりも欲しかったから。


「あなたは考えることをやめてしまったのね・・・」

悲しげなつぶやきが闇の中へと消えていった、その声の主がなんなのか私にはいまだにわからない。

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