君の世界に色を付けて
今回は息抜きに短編小説を投稿してみました。気に入って頂ければ幸いです。
*感想を踏まえて、編集を加えました。気に入って頂ければ幸いです。
「おはようございます」
地を這う橙色の光。窓からは光が薄らと差し込んでいる。
「今日は?何年?」
「ふふ、今日は姫様の昨日から6年後ですよ。」
「……そう。貴方はいつ死ぬの?貴方は何回私におはようを言ってくれるの?」
「またまたご冗談を、私は姫様の傍に居続けますよ。心配しないでおやすみなさい。」
そう言うとまた姫様は眠りにつく。姫様は私が前の従者から変わっている事に、気がついているのだろうか。
姫は数十年前から眠り続けている。起きればいつも同じ質問をして、夢の世界へ旅立つ。姫様がいつ産まれてどうやって成長したかは誰も分からない。ただわかるのは此処にとてもとても美しい女の子が眠っているという事だ。
姫様が寝ているベッドは真っ白で何の装飾品も付いていない。だから余計に美しく透き通ったその顔が、細くやせ細り華奢な身体が、一層映えて見えるのだ。
従者が座る椅子と姫のベッド以外は何も無い殺風景なこの部屋に一輪の花を花瓶にさして置いておく。
次に姫様が起きた時、一言でも多く喋ってもらえるように。
──私の想いが少しでも届くように。
「ねぇ、姫様。そちらは楽しいですか?帰って来てはくれないのですか?」
たとえ届かなくたっていい。でも姫様、貴女ともう一度だけ話がしたい。夢の中では無く、現実で。その時一瞬だけ、姫の顔が綻んだ気がした。
姫は私に優しくしてくれた、たった1人の大切な人だった。従者の分際でこんな事を言えば、きっと私の命の保証は無いだろう。
けれど、今は私と姫の二人しかいないのだ。
私の世界に色を付けてくれた姫はいつ戻ってくるのだろうか。もう一度会いたい。
姫はただ静かに眠る。姫は自分の運命がきっと分かっているのだろう。
「姫、この花はリナリアと言うんです。花言葉は──」
この恋に気づいて。
もう届かないこの想いに。
お読み頂きありがとうございます。続きは皆様の想像にお任せします。これからもよろしくお願いします。