葉っぱ一枚と命ひとつ 1
剣の練習をしていて、夏樹はすぐに腕が張ってしまう。見かねた先輩冒険者は先に腕を鍛えるように勧めてくれた。それ以降夏樹は何人かの冒険者と共に腕のトレーニングをしている。もっと軽い木の棒で素振りするとか、腕立てのような運動をインターバルを開けつつ一定時間やり続けるとか。
筋肉をほぐすという香りのハーブを使った茶を休憩中にふるまうフリューシャに、先輩冒険者の女性が声をかけた。あんたなら薬草なんかに詳しいと思ってさ、とその人は申し訳なさそうに照れ笑いをした。
「実はさ、昨日遺跡に行った先輩グループが薬草を大量にとってきたんだ。だけど、何種類かは薬草に似たまったく違う草だとわかったんだ。
どういう草か知っている者があれば、使い方や保存法なんかを教えてほしいんだよ。」
大通りにある鑑定士の店に出さなかったのかフリューシャが聞くと、お金をケチるために出していないと女性は答えた。少しの間、あごに手を当てて考えたあと、彼は女性に、その先輩本人がケチることを決めたのかと尋ね、そうだとわかると、フリューシャは本人に会いに行くことにした。残っているお茶ポットは傍にいた別の冒険者に任せた。
先輩は女性を見るとすぐに手招きして大声で名前を呼んだ。そいつが噂のお茶エルフか。先輩は言って、フリューシャの肩をばしばし叩いた。訓練のさいに毎回お茶の入ったポットを持ってくることからついたあだ名のようだ。
「例えば僕が、この草を全部見分けて、あなた方がお聞きしたいことを話したとしますね。
でも、どれかが間違っていた時、僕は責任を取ることができません。どれが違っていたかわかるように全部調べるお手伝いはできるかもしれませんが、責任はとれません。
鑑定士の店の代金は責任のぶんです。それぐらい、重いものなんです。
武器や防具の鑑定が間違っていれば、防げたはずの攻撃が通ってしまいますし、魔法具の鑑定に問題があれば、それを使った人が魔法に失敗して被害を出してしまうかもしれません。その場合に、物やお金や行動や自分の地位、最悪の場合は命を使って補償するのが鑑定士なんです。
何かあっても、全部自分で責任をとるのでない限りは、僕は、お受けできません。」
先輩が何か言おうとするより早く、フリューシャは畳みかけるように喋った。一度にたくさん喋るのは苦手で、フリューシャ本人も実は驚いてしまい、先輩が腹を立ててまくし立てるまでの数秒固まってしまっていた。
女性は先輩の怒りを表すさまが怖くてフリューシャが緊張したのかと思い、先輩をなだめようとした。先輩は女性を押しのけてさんざん文句を言うと最後に少し声を落として
「すかしやがって」
言いながらフリューシャの背中を睨んでいた。女性は背中に向かってごめんねと言うしかできなかった。