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剣の重さは……

 先生がつく修行が休みでも、両隣や同じ区画に住む先輩冒険者や店への挨拶、自主練習、魔法以外の訓練など、やることは盛りだくさんだ。毎朝六人と一体が全員そろって朝ごはんを食べつつ予定を決めるのが日課になった。


 森への出入り口の近くには少し開けた空間があり、主に見送りや出迎え、複数パーティの集合や解散が行われている。


 ある日のこと、冒険者が遺跡で大量に錆びた剣を見つけてきた。冒険者たちで手分けして、さびを落とし、使えるかどうか素振りをしたり、物を切ったりする。フリューシャたちも手伝いをすることになった。


 剣を扱う機会はあまりなかったし、生活用品としての短剣しか持ち歩いていなかったフリューシャたちは、ほかの経験の浅い冒険者たちとともにそれらを使って剣の扱いの基礎を学ぶ突発講座に喜んで参加した。 

 町の移動に大剣を持ち歩くのは難しいが、このリンドに滞在し森や遺跡に入る際には、良く出回っている長さの剣が扱えると、非常に便利になるだろう。




 初めは、一度手に持たせてもらい、重さを実感することから。重さに慣れるため、柄に収め外れないように布にくるまれた剣を腰に帯びて通りを歩いたら、翌日からようやく剣の握り方を教えてもらえる。しかし、振るうことはまだできない。暗くなって解散するまで、同程度の大きさの木で出来た剣で素振りである。

 三日目、あるパーティの剣士が来なかった。パーティメンバーの一人が偵察訓練を兼ねて町中を探し、酒場で遊んでいるのを見つけた。さぼった理由を聞き出した彼は、先輩冒険者に報告した。


「『基礎の基礎なんて、徴兵のときや剣を買うときにさんざんやらされる。ほかの連中には俺よりも経験を積んだ人もいるだろ。そういう人は飛ばして実技でいいじゃん。徴兵の時の学校思い出して嫌になったんだよ俺はさぁ。』

 一字一句、覚えてきました。……多少、気持ちわかるんですけどね。素振りやったあとだと疲れちゃって座学が頭に入らないし……」


 先輩冒険者は、報告した者に、剣士を引きずってでも、魔法で眠らせて転がしてでも連れて来いと命じた。剣士以外のパーティメンバーが三人、町のほうへ走っていった。報告した探索系と、治癒の魔法使いと、軽装で筋肉を見せつけた前衛だ。治癒の魔法を使う人は、解除するための魔法を習うときに、対になる、眠らせたり麻痺させる魔法を一緒に覚える。それで動けなくして、筋肉前衛が抱えてくるのが容易に想像できた。


 一時間たたないくらいで、大方の予想通りに筋肉前衛に抱えられた剣士が先輩の前で降ろされた。先輩は痺れ魔法を解除してやると、剣士に木刀を渡して、構えるように言った。そして、周りにいる新米たちの中から数人選んで、同じような木刀を渡し、彼と打ち合いをするように言った。その中にはフリューシャと夏樹とテトグがいた。


 何人かが女性だったので、剣士は一瞬不満そうな顔をしたが、すぐに先輩の声がかかって、真剣に木刀を構えた。


 選ばれたのは剣を扱ったことがないという者がほとんどだ。最初の三人は持っているだけで精いっぱいで、剣士が力を入れると耐え切れずに押されて倒れたり、木刀を手放してしまう。しかし、四人目のテトグが素早く間合いを変えながら攻めると、剣士はまずいと思ったのか、木刀を握り直し、彼女の動きを真面目に追った。そして、動きを予想して、見事に木刀を受け止めた。

 受け止めたが、腕のほうが重さに耐えられず、剣士の腕からどんどん力が抜けていく。やがて手から木刀が滑るように離れて、近くに飛んだ。


 実は剣士に渡した木刀は、中に芯となる鉱石が埋め込んであって、重さが通常の剣と同じくらいになっている。剣をそれなり扱える技量と腕力があれば、振るううちに重さに気付くことができるはずなのだ。気づかないで普通の木刀だと思って振るっていると、疲れて腕の力が弱まれば急に重くなったように感じるという妙な木刀なのであった。


 先輩冒険者が、渡した木刀が一人だけ重いものであることを明かすと、剣士は悪態をついた。先輩冒険者は、代わりに謝るパーティメンバーにどくように言い、腰を下ろしていた剣士の腕を引っ張って無理やり立たせた。それから地面に刺さった木刀のほうへ無理やり体を向けさせた。


「鍛錬を続けなければ、力や技術は衰える。もし狭いダンジョンや森の中だったら、さっきのお前の剣で仲間が貫かれたかもしれないのだ。それでも平気でいられるのなら、お前は剣士ではない。」


 剣士は走り去った。パーティメンバーのうちで一人がそれを追いかけていったが、先の三人は追わなかった。


 十日ほど後に、初級~中級向けの、比較的罠の分かりやすい洞窟で、初級の魔物の定期討伐に出かけた冒険者たちが、あの剣士とそれを追った者が死んでいるのを見つけた。あの剣士は自分の剣によって壁に留められていた。

次回は2月いっぱいまでのどこかで投下します。

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