表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界旅行譚 六人が行く!  作者: 朝宮ひとみ
旅の始まりから
89/171

成人の儀の第一歩 7

 修行再開からひと月ほどしたある日。夏樹が松明に火をつけることができたが、それ一回だけであとは一瞬ともって消えてしまうばかりだ。再びつくようになるにはさらに一週間以上かかった。

 その頃にはフリューシャもなんとか松明にともせるようになった。ダージュは指先に火をともす課題だ。手のひらの上に炎を浮かしたり、指先から離れた場所に炎を浮かべることはできるのだが、『指先にともしている』状態になるにはやはり数日かかった。


 火の魔法を成功させる頃には、フリューシャも夏樹も、泉の祠で魔法陣を一時間維持しても多少息が乱れる程度で保てるようになった。その横で、泉の水をダージュが操っているが、やはり美しくない。




 再開からふた月経つころには、残る課題はダージュの水の魔法だけになった。フリューシャが五つ目の魔法を見てもらったあと、まだ日が高いこともあり街で気晴らしでもしようと誘うと、魔導士は優しく見送ってくれた。フリューシャも、夏樹も、ダージュも、往来を行く冒険者たちを観察したり、店で魔法具や雑貨を見て楽しんだ。


 三人が午後のお茶を楽しもうと喫茶店に入り、パンケーキのクリーム乗せを食べ終えようとしている時だった。

 練習の時たびたび見かけた新米の冒険者パーティ五人が入店し、食事を頼んでそのまま空いていた席にどかっと座った。全員見た目は茶髪に青い目の多口種の男で、口調が軽いので近寄りがたいと三人は思っていたし、ほかの冒険者から見ても近寄りがたい五人組である。


 帰ってきたばかりのようで、外見は木の葉や草がまだだいぶ付着していた。お前もう一回払って来いよーと前衛が、木の葉まみれの弓遣いをからかっていた。弓遣いは外へ出ずに、前衛に仕返しのつもりなのか、外したマントをそのまま前衛に向かってばさばさ払った。


 近くの席の冒険者が露骨に嫌な顔をして、彼らの席から目をそらした。そっと目配せして、パーティごと隣のテーブルへ移った。それでも五人組は何も気にする様子はない。弓遣いはそのまま席について注文したものが出来上がるのを待っている。弓遣いの隣の治癒魔法使い(初級)がたまたま夏樹と目が合った。


「あそこのテーブル、見ろよ。こないだ広場で練習してたアーシェ人と長耳だぜ。」


 五人が言いたい放題いうのを無視し、食器を返して来ようと夏樹がカウンターに向かったときだ。


「うわっ、熱っ!なんだこれ、おい、なんだよ、これ!」


 彼らの席の近くには、調理のかまどがある。網がかかっていて、冬は暖房を兼ねているのだが、そこの火の勢いが大きくなっていて、網から炎がはみ出してきていた。しかも、ぱちりぱちりとそれなり大きな音がして、小さな炎が近いテーブルにいる五人にまで飛んできていた。即座に、調理していた店員が怒って、網の向こう側へ回り込もうとしている。


「だれだ!火の神の草を突っ込みやがった奴は!」


 払った草の中に、火をはじく性質をもった草や小枝があり、それが網を抜けてかまどに入ってしまったのだ。即座に三人は立ち上がり、ダージュが水の塊をつくってぶつけた。フリューシャと夏樹はおろおろする五人に、周りのテーブルから差し出されたコップの水をかけてはテーブルから遠ざける。我に返った五人が逃げようとしても、もっと経験豊富な冒険者たちが刺すような視線を向けていて、とても店外に出ることはできない。


 他の何人かの冒険者とともにお礼を言われながら、ダージュだけは考え事をしていた。




 ボヤ騒ぎから数日後、三人は泉の祠で修行の成果を示す時が来た。

 最初に、魔導士ジュニーニャが魔法陣を三人に展開し、三人はそれぞれ各自の魔力を通していく。フリューシャはややくすんだ緑。夏樹は、淡い青緑。ダージュは紫がかった濃い赤。それぞれ完全に染まってから三十分ほど保たせてから、魔法陣を解除した。


 息を整えたら、フリューシャ、夏樹、ダージュが順番に魔法を見せていく。最初に水の魔法、次に風の魔法、土の魔法を見せ、炎を飛ばして、光の魔法。四つとも合格をもらったところで、練習とも違った場所へ移動して、炎の魔法を試験する。

 苦戦した炎や水も、三人とも何とかこなした。出来るまでが長かったフリューシャと夏樹も、起こした炎が一瞬で消えたりしないで安定するようになった。


 試験を終えても、家に帰っても、ジュニーニャは三人に試験について何も語らない。だが、夕食を食べて、全員が席を立つ前に話を切り出した。


「三人とも合格です。よく、がんばりましたね。」


 ジュニーニャは、フリューシャとダージュがしている、成人の儀の証のピアスに触れた。焼き印のように、すっと一本の線が入った。それから、まだ席を立たないように皆に注意し、懐から似たデザインのイヤリングを取り出して、夏樹の片耳に着けた。


 魔導士が席を立って食器の片づけを始めると、三人は立ち上がってハイタッチした。他の三人と一体は笑顔で拍手を送った。魔導士の息子も、退席せずに様子を見ながら、やや不満げな顔のまま拍手をくれるのだった。

次回は14日水曜日に投下する予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ