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異世界旅行譚 六人が行く!  作者: 朝宮ひとみ
旅の始まりから
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成人の儀の第一歩 6

 九日目となる夕方に、やっとフリューシャと夏樹は目を覚ました。ダージュは一日体を起こしていたので、二人が目覚める前後の様子を見ていた。


 それから三人とも回復するまで、修行は休みとなった。部屋でおとなしくしているのは三人には退屈だったが、ぶり返したらつらいのは自分だからと、三人は我慢した。




 回復から数日経つまで、ジュニーニャは修行を再開しなかった。再開一日目はダージュだけ連れていき、次の日はフリューシャだけ、その次は夏樹だけ、としばらくはひとりずつ相手にした。


 その間にダージュは光の魔法の合格点をもらい、水を操る魔法の練習を始めた。

 彼は生活で使う魔法には困っていないが、逆に生活で使わないような操り方は使わないだけうまくいかない。何本かの糸やひものように細く分かれて、噴水のように模様を描いて流れるはずが、顔の大きさほどの水の塊がふよふよ浮かんで、動かそうとするとばしゃっとぶちまけるだけになってしまう。水が踊るような、という指示にはとても合わない。


 ジュニーニャの手本は、まるで管があらかじめ用意してあるかのように、細い水流が規則的で美しい紋様を描いたり、逆に不規則にあたりを動き回ったりする。手本を終えた彼女はダージュにアドバイスした。


「水という一つの塊ではなく、たくさんの水滴それぞれを動かすことを意識して魔力を込めてみて。まずは、水滴をつなぐような、もしくは、ひとつの線を辿るような……うまく言葉にならないけれど、まずは、流れを作ることを考えてみてほしいの。」




 しばらく考え込んだうえで、ダージュは水の魔法をやり直す。やっぱり塊になってしまうが、そのまま動かすと、長く伸びた。彼はまず、同じ量の水からもっと小さな塊を取り出して、伸ばすようにしてみた。水が伸びるようになってきたら、少しずつ塊の水の量を増やしたり、あるいは逆に減らして個数を増やしたりと、状態を様々に変えてみた。


 考えるのと実践とを交互に重ね、日が暮れるまでには、光を操るときのようにある程度自由に動かせるようになってきた。しかしまだ、優雅とは程遠い。水の流れは太くて水道の蛇口を思い切りひねったみたいで、動きもかくりかくりと直線的だ。

 それでも、帰ってきてからの夕食の時間、ダージュは嬉しそうに本日の内容を話した。フリューシャと夏樹は薬味を散らしたおかゆを食べつつ、自分のことのように喜ぶのだった。


 しかし、二人が魔法陣を一時間ちかく保てるようになっても、光の魔法を少しだけ点せるようになってきても、直線的な動きは直らなかった。水流もまだ少し太い。




 不機嫌な様子を何日も見ていて、ジュニーニャはある朝、こう告げた。


「今日は泉にはいきませんよ。……ずっとできなかった、炎の練習をしましょう、今日から少しの間、開けた場所が使えそうなので。」


 ジュニーニャが言うと、三人は少し疑いながらも、はい、と返事をした。


 村には、冒険者の街の一角に、武術や魔法の練習用に何もない場所が作ってある。そこ以外に、遺跡のいくつかで魔法の練習ができるが、移動時間がかかるし毎回七人で移動しなければいけなくなってしまうしで、向いていない。

 それに、町の中ならほかの人もいて何か良い刺激があるだろう。様々な理由で、うってつけな場所だ。




 往来の一角なので、公園のような雰囲気だ。剣や木刀などで素振りをしている人があちこちにいたり、片隅からじっと装備や武器を見定めている店番見習いがいたりしている。

 そこに魔導士の正装ともいうべき衣装で入ってきた老人と、ついてきた三人を見て、人々はざわついた。


 ジュニーニャが炎の魔法の練習をすると説明すると、人々は快く場所を開けてくれた。さらに、何人かの魔法の使い手が、手伝ってくれるという。過去のおのれを懐かしみながら、魔法を見せる者があれば、参考になればといいながら試験と関係ない操り方で炎を纏う者もいた。ダージュはつい、からかうなよ、と文句をいい、手伝ってくれた魔法使いは笑った。


 フリューシャと夏樹はまず炎をつけるところからなので、練習場にいる皆が笑みをこぼしてしまう。着火する気配もない。長耳族なら多少波動の流れを感じて期待が膨らむが、何がいけないのか、フリューシャの手のひらに一瞬だけ、


ぽっ、


と小さな炎が出て、消えてしまうだけである。もちろんずっと見ていてもつまらないので、アーシェ人の夏樹や、中級の練習をするダージュに注目が移る。時々応援の声が飛ぶ。

 休憩がてら交代した二人の冒険者が組み手のあとにフリューシャとダージュを呼び出してなぜか二対二で相手をすることになったくらいで特に妙なことも起きずに一日が過ぎていった。

次回は明日12日月曜日に投下します。

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