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異世界旅行譚 六人が行く!  作者: 朝宮ひとみ
旅の始まりから
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成人の儀の第一歩 4

 修行五日目は、フリューシャと夏樹は二人で一緒に魔法陣を維持する修行をすることになった。集中力は十分だが、魔力の扱いがそれについていかない。あっという間に魔法陣は消えてしまう。長くても三十分も持たない。魔導士ジュニーニャは、一時間保つことを目標に、と二人に言い、休憩の間にダージュの様子を見ることにした。

 二、三アドバイスをしてふたたび二人に魔法陣を展開しようとしたジュニーニャを呼び止める者がいた。いつのまにか彼女の肩の上にハユハユが乗っかっていた。


「そのまま続けても、たぶん維持できる時間は伸びない。


 あくまでわしの感想でしかないが、フリューシャは、『これ以上は自分にはできない。無理だ』と思い込んでいるように見える。自分に自信がなさすぎる傾向があるのは出会ったときから感じていたが、魔法のことになるとやはり間違いなく、自分はできないという思い込みが激しいのではないか。


 夏樹とダージュにはあせりがあるように見える。夏樹の場合は、アーシェには魔法がないから修行の成果が出ている実感がないのだろう。

 ダージュは逆に、理想が高いというか、上を見過ぎている。冒険者でない我々は旅の中で初級より上の魔法を使う機会は極端に少ないのだから、制御が多少乱れるのは仕方ないのだ。」


 ジュニーニャはハユハユと似た感想を抱いていることを話した。それと、何か違う内容をさせようにも、今の三人は行っている内容に固執していて逆に気が散ってしまいそうだと述べた。


「気が散ろうがなんだろうが問題ないものを考えたのだ。」


 ハユハユに耳打ちされたジュニーニャは了承した。休憩のために泉のそばの岩に座っていたシュピーツェに協力を仰き、それから三人を呼び集めた。


「彼についていきなさい。」


 年のせいか疲れているのよ、と当たり障りのない言い訳をして、三人を送り出す。呼吸が乱れない程度の負荷で走り込みつつ、シュピーツェが波動生物と魔導士が懸念していたことをうまくぼやかしながら話を引き出し、少しずつほぐしていく。


「三人とも、間違いなく前進しているのをまず実感しろ。もともと魔法を使ったことがなかった夏樹はもちろんだが、ダージュ、うちのパーティで最も魔法に長けたお前も、十分に伸びている。」


「俺たちはトレジャーハンターや遺跡荒らしじゃあないから、強い魔法や難しい魔法を使うことがほぼない。ちょっと火や明かりをつけたり、そこに水をかけたりする程度だ。

 年に数回あるかないかだからな、具合を忘れてしまったり、多少大雑把になってしまうのは誰だって同じだ。

 俺やフリューシャだって、毎日練習しているから、弓の腕がそれほど落ちずに済んでる。半年や一年使わないでいたら、素人よりマシくらいになっちまうかもしれないんだ。」


「フリューシャ、百年バカにされて、心がどうしようもなく固まっちまったんだな。確かに、多口種と比べても素養が低い。だが、補う方法はある。悲観するな。

 まして、旅を始めたときから考えてみろ。これまでできないと言われバカにされてきたこと、今、何がどれだけできるようになった?お前はちゃんと変わってる。お前自身まで、お前をバカにするな。

 夏樹も、出来るわけがないと思い込むな。転移してきて魔法がつかえるアーシェ人は意外といる。昔神隠しですっとんできたロムルス人という人々が居た。その中から今でも歴史や魔法の教科書に残る者が三人もいる。帰ったら、あの書記に頼んで、『ロムルス三賢者』を調べてみるといい。三人とも最初の魔法陣を描くまでに丸一年かかってるんだ。素養があるだけで、お前は早くからスタートできたんだ。まずはそれを喜べ。」




 数時間後、魔導士の家で彼女とシュピーツェに見守られながらそろって眠る三人の姿があった。夕食の時間まで起こしに行かずに、三人をしっかり寝かせてやるのだった。もちろん、食べた後も三人は早く眠ってしまった。


 六日目の修行は元のメニューに戻ったこともあり、特に誰か気に留めるような出来事は起こらず、緩やかに三人の魔法力は伸びていった。


 七日目は雨が降った。ジュニーニャは今日の訓練内容は座学にしようと、朝早くに、確認したいことや教えたい内容などを書斎でまとめていた。


 豆茶の一種(コーヒーに近い飲み物)を淹れようと台所に向かった彼女はそこで書き置きとまとめられた食器類を見て初めて、三人が目を覚ましていて、さらに家の中にいないことに気付いた。


『時間になっても先生が来なかったので、先に出発しました。 フリューシャより』

次回はあす10日土曜日に投下します。

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