成人の儀の第一歩 3
修行一日目。長耳族に合わせて全員が夜明けごろに起床し、身支度を整える。タリファとテトグが全員分の朝食と七人分の弁当を作っている。修行する三人と魔導士、学校へ行く魔導士の息子以外にも外出する者がいるということだ。
朝食をとり最低限腹が落ち着くだけの時間ののち歯を磨いて、三人と魔導士と一体は泉の祠へ向かった。シュピーツェは何故かあちこち走り込みをしていて弁当には彼のぶんも入っている。
祠に着くと、ジュニーニャは三人に今日のメニューを伝えた。
フリューシャは魔力を一定に使う訓練。調べるときと同様に、魔法陣を書いてもらって、そこに魔力を注ぎ込み長く保つというものだ。夏樹は魔力を使うことに慣れるために、魔法陣を書いてもらった状態で気を失わずに保つことを目標にし、フリューシャと交互に訓練を行う。
スポーツや武術でいえば、走り込みで体力や持久力の向上を目指すようなものである。その近く、ジュニーニャの目の届く場所で、ダージュは中級の魔法の自主練習をすることになった。
魔法の得意不得意には目安がある。火・水・風・土・光を操る五つの魔法をひと揃いとして、初級、中級、上級の目安とする。例えば、火は初球で土は中級などと伝えるとだいたいの力量が想像できるわけだ。
初球は、
・松明などの先に炎を起こす
・顔くらいの大きさの入れ物に水を張ってその水を持ち上げる
・風を起こして木の葉を自由に動かす
・土を盛り上げて固めて岩のように見せかける
・手のひらの上に光の玉をつくりそれを人に渡す(=熱が強いとダメ=火ではダメ)
という内容である。
中級は、
・指先から炎を浮かせる
・水を糸のような細い状態で躍らせる
・風を起こして自分や他人を持ち上げる
・土で彫刻を作る
・指先に光の玉を乗せその玉を自在に飛ばしたり浮遊させる。
という、初級の発展的な内容となっている。
修行三日目まで、三人に変化はなかった。
フリューシャは十分くらいで魔力が途切れてしまい、力が抜けて座り込んでしまうことが多い。座り込むならましなほうで、ばちっと魔法陣が弾けた拍子に転んだり、泉に落ちたりすることが何度もあった。
夏樹は一、二分すると気を失わないまでも足から力が抜けて倒れてしまう。倒れずに済んでも、五分しないうちに気を失ってそのたびにその場で三時間くらい寝ている。
ダージュは自分を気にかける隙もないほどに二人がてこずっているのが心配で集中できないでいた。気を抜くとついつい二人のほうをじっと見つめてしまい、ハユハユに「二人が心配か」と質問されはぐらかすのであった。
走り込んでいるシュピーツェは森の中も通っていた。泉に近づき姿が見えるたび、心配そうに三人を見ているのであった。実は、見ていることしかできなくてもどかしいのである。
ちなみに二日目の夕食でダージュの様子をハユハユから聞いた夏樹は、ダージュはツンデレなんだなあ、とつい口走ってしまった。説明を求められて有名なライトノベルの女の子を例に挙げたところ、
「違うし。お前らが弱っちいままだと俺やタリファが困るから心配なだけだし!」
テンプレ回答とゲンコツが飛んで、ダージュはジュニーニャとタリファに叱られるのであった。
修行四日目になってもフリューシャは進展がまったくない。夏樹は五分くらいまでは気を失わずに魔法陣を保てるようになった。ダージュは、五つの中で一番得意な光の玉はそれなり操れるようになったが、そこで日が傾きかけてしまい、その日の修行は終わりとなった。
ジェニーニャはそれぞれ成果が出たときと、夕食の席で改めて三人を少しだけ褒めた以外、修行に言及せずにいた。
彼女は、あまり褒めると三人が甘えてしまったり助長してしまうのではないかと不安に思っているのだ。彼女の独り言を聞いてしまったハユハユは、
むしろ、多少は褒めてやらないと、フリューシャと夏樹は特に、自分の成果が見えないやつだから、今日のように出来たときと飯のときくらいはほめてやるほうがやる気が出ていいんじゃないか
と思いながら通り過ぎるのであった。
次回は明日9日金曜日に投下します。