はじめての遺跡洞窟<ダンジョン> 5
しょせん初心者向けだ。冒険での経験やそれにより深まった絆が宝物、という子供だましもありうる。ダージュが言うと夏樹も賛同した。あとは黙っていた。一同はもう一度見回ってからどれくらいだろうかじっとしていた。そのとき、フリューシャが操作盤に違和感を覚えた。操作盤のスイッチがならんでいる横の何もない平らな黒い部分に、青白い四角がひとつ、真ん中に浮かんでいた。彼が周りに声をかけてから四角に触れた。
スイッチから彼の手が離れると、とぎれとぎれでノイズ交じりの音声案内のようなものが聞こえ、黒い部分が四角ごと真ん中で分かれて左右に開き、中からこぶし大の宝石を載せた台がせり上がった。フリューシャがおそるおそる宝石を取り出すと、開いた部分は元のように閉まり、四角は消えていた。
宝石は、魔法具にとりつける宝石や鉱石のようだ。これが、ここで手に入る『宝』なのだろうか。最後にもう一度全て調べなおしても何も見つからなかったので、皆、村に帰還することにした。
村にある、冒険者協会の名残の窓口に行き、フリューシャが代表して『三部屋』を踏破した認定が欲しいと係員に申告した。係員は代表としてフリューシャと、写真のパーティのリーダーを別の部屋へ案内し、いくつか質問をした。
回答を聞き判断を終えた係員は残りのメンバーを呼びに来た。遺跡に行った全員に話があるという。
係員は集まった全員の遺跡踏破を認めるといい、申し込みの時に提出したタグを一人ずつ印をつけて返していった。それから、『三部屋』の踏破の条件に付いて話を始めた。
あの遺跡には、あの操作盤以外に何かアイテムを排出するようなしかけはない。あの操作盤は『三部屋』を含めた施設全体に何か配分するために使われていたようだということが発見時の調査で分かっている。そのころは、冒険者は魔物や野生動物から調査隊の身を護るために雇われて遺跡に入っていた。
やがて魔物が出なくなり、調査の進展もなく、魔法石を排出する以外の機能がきかなくなっていったことから、『三部屋』は冒険初心者に多少の経験を与えるために使われるように変わったのだった。
操作盤はスイッチをやみくもに押していっても魔法石を排出する。ただそれはつま先ほどの大きさで、安価な使い捨てのお札に込める程度の魔力しか持たない。調査でも正解なのかはわからなかったが、様々な操作を試した結果、石の排出量や大きさが異なるため、スイッチを押す順番などの決まった手順があるのは確実らしかった。
今はもう音声が劣化してしまったが、自動音声の内容から、遺跡内部の灯りや機械装置を動かすための動力として配給するために使われていたのではないかと、村では結論付けている。
しかも、排出される魔法石は、採掘するものと組成に違いがあり、人工的に作られたものだ。この世界にも、アーシェにも、現在、人造魔法石をつくる技術はない。
今回フリューシャたちが手に入れた人造魔法石は大きすぎて、小さくしたり磨いたりしないと六人と一体にとっては使い道がない。六人と一体は、長老や魔導士たちに話を聞きに行くまえに、魔法雑貨屋か魔法石加工屋を探して、魔法具屋にいくつかのブローチやペンダント、指輪にはめる形に加工を頼むことにした。
魔法具屋は、彼らに話をした。長老や高名な魔導士には会うために条件があったり、試練を課されたり、予約が詰まっていたりするから、すぐに話が聞けるとは限らない。出会った書記のつてをたどるとよいだろう、と。
一行は魔法具屋に礼を言い、前金を払うと、書記に魔導士の知り合いがいないか尋ねるために家へ向かい、書記が簡単な紹介状を書き上げるとすぐに教えられた住所へ向かうのであった。
次回は3日土曜日に投下する予定です。