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異世界旅行譚 六人が行く!  作者: 朝宮ひとみ
旅の始まりから
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いもとアーシャ式小説 2

『ファンタジーは取材なしで書ける』なんて誰が言い出したんだ許さぬ、という気持ちです。いや、某露伴先生は無理ですけど、出来るだけ気になったところは検索や本を見るだけじゃなくて実際に自分の五感を使って書きたいと思いました。

 夕方ぎりぎり明るいうちに旧首都レムシアの町に入った一行は、王国時代から続くという宿に泊まることが出来た。様々な時代の町の遺跡が点在する観光地であるこの町は、どこも宿が取りにくい。しかも、歴史が長い宿はそれ自体が観光スポットになっていたりする。

 一行が泊まった宿は、肉と麦酒が旨いレストランがくっついていて、非常に人気のある宿だ。そのレストランに入る際に見えた張り紙や広告で初めて人気ぶりを知る程度に、六人と一体は無頓着なのであった。


 ダージュには見慣れた、夏樹には中世ヨーロッパ的に見える、石とレンガで出来た建物が並ぶ旧市街地。窓から見える町並みはどこかほっとさせる。慣れていないフリューシャでも、


「大きな都会とか、アーシャ式高層建築……えっと、びる、だっけ。あれみたいな、雰囲気があまり感じられなくて、いいね。」


何かしら感じることがあるようだ。記憶のないシュピーツェも、フリューシャに賛同した。


「いいにおいがしてきた。」


 テトグは話しそっちのけでずっと厨房のほうを向いていたので、頭の中はこれから出てくる夕食しかないようなものだ。テーブルの一角、波動生物用の席としてちいさなクッションを用意してもらったハユハユは匂いで気が散って、町ではなく料理の解説を始めてしまう。


「ふむ、この香りは前菜のスープだな。シンプルなぶん、腕前がよく現れる。ただ格式ばった店より、やはり、こう、風格というか、むー、にんげんの、ことば、めんどくさい。……ともかく歴史を積み重ねてつくられた風格や受け継がれた伝統は素晴らしい。」


 ウェイトレスやウェイターが何人かで料理を運んできて、さっと礼をして戻っていった。とたんにぎこちなくなる夏樹以外は、下品とまでは行かないもののあまり丁寧でなくさっさとスープを飲み干していくので、ハユハユがつまらなそうにしていた。




 スープ、温野菜の盛り合わせのあとに、何か香ばしい匂いが漂って、テトグとタリファはいろいろ食材や料理の名前を言い合いはじめ、フリューシャはさすがに恥ずかしくなってきて二人を止めるために声をかけたが、小さくて聞こえないらしく二人は反応すらしない。


「わぁ、これ本当にじゃがいもなの?」


 引き肉や野菜が上にたっぷり盛られた、スパゲッティのような麺がメインのひとつとして運ばれてきた。六人もハユハユも見たことがないものだ。ラーメンのように縮れていて、色も小麦粉の麺の見慣れた色よりややくすんでいてますます透き通っている。そしてほのかにジャガイモの香りがする。


「んっ、何だこれ……!」


 するっと数本だけ口にしたダージュがそれだけ言うとフォークを止め、ずっと咀嚼を続けている。横で見ていたフリューシャが続いて自分の麺にフォークを入れ、一口。


「ぐにっとする……」


 口の中のものを飲み込んで、水を少し流し込み、一息ついた彼は不思議そうというか、やや不快な表情を示した。コシの強い麺のあの独特の食感が好きではない彼は一口を小さくし始めた。


 ダージュとタリファは逆に好みだったようで、夢中でフォークを走らせ、ハユハユは一本ずつつまんではちゅるっとすすっている。夏樹はアルデンテでないのにもちもちしこしこした麺のコシの強さに驚きつつ、少し変わったラーメンを食べているようだ、と感想を口に出して、フリューシャにラーメンとは何か聞かれて返答に困った。シュピーツェは小さな声で


「おれは赤くて辛い、熱くなるスープが好きだ」


とつぶやき、隣のテトグが聞き取って、食べたことあるの?何か思い出したの?と体を乗り出す。


「分からないが、確かに、そういうものを食べたような、気がした。使われている食材などは、思い出せないし、もしかしたら知らないだけかもしれん」


 わいわい盛り上がりながら、時間をかけて食べているので、さっさと食べたテトグとダージュとタリファで、フリューシャが半分以上残した麺をメインディッシュが出てくるまでに食べきってしまうほどだった。




 でてきた料理を見て、夏樹は懐かしい気持ちになった。この料理はおそらく、夏樹より数代前の日本人が、昔のレムシア一帯の人々に伝えたものであるといわれていることを聞いた彼は、懐かしさがどこか寂しさに近いほどに強くなり、目を閉じた。

 時間が開いたのは、実際にじゃがいもの麺を買って食べたためです。ニョッキのような塊というか練り物っぽい雰囲気のものと迷ったのですが、調べていて、じゃがいもっぽい味がしないらしいところが面白いと思って麺にしました。ソースの味も同じものに関する記述を発見することはおそらく不可能なのと、雰囲気で例として書いた文と明らかに違うところがあったので、適当に書かなくて正解でした。

 ちなみに、買った麺が韓国のじゃがいも麺だったので付属のスープは唐辛子系の赤いスープです。シュピーツェが思い出していたのはそれに近い見た目の、トマトソースやチリソースのようなものを想定しています。


次回は13日(水)~15日(金)のあいだに投稿します。

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