はじめての遺跡洞窟<ダンジョン> 4
村に戻った六人と一体は長耳族が書き残した資料を探すために長耳族の書記を探した。長耳族の集落には必ず最低一人、口伝や記録を行う書記を置く慣習がある。時代が進んだ今では大きな街では図書館や資料室を持っていたり、中に含まれる資料を管理する役職についている者も多い。森の集落で聞き込みをして、書記の家を教えてもらった一行は、教えられた家を訪ね、書記に迎えられ部屋に通された。
お茶を飲んだ後すぐに、フリューシャが、古代文字と言葉を教えてほしいと切り出した。書記は、体力と時間がないといって断った。その代わりにと、書記は皮紙に文字の表を書いてくれた。現代の長耳族の文字と、いくつか時代ごとに古い文字との対応表だ。
統制語の文字をこの書記はあまり知らないので代わりにダージュとフリューシャが余白に書き入れていると、遺跡で出会ったパーティのメンバーがふたりやってきて、同じように文字や言葉を教えてほしいと書記に頼み、同じ理由で断られて帰ろうとした。
フリューシャはその二人を呼び止め、出来上がった写真を見せてもらうことを条件に表のことを教えた。
表を見ながら現代の文字に置き換えたものを書き連ねていくと、ところどころわからない語が現れた。文字を置き換えただけなので、古い言葉などがそのままだからだ。辞書のように調べるための資料は伝説の大戦争のあとのものしかないので、少ししか該当しなかった。仕方がないので書記に元の写真や書き起こしたものなどを見せていくつか尋ねると意味を教えてくれた。もちろん素早く誰かが書き留めていく。
解読した結果それは古いわらべ歌だった。書記は七百歳を超えたくらいである。今の長老や長老の親の世代以上の者が歌っていたのを、書記はかすかに覚えていた。
歌詞の内容は、子供向けの歌らしく、明るい時間は友達と仲よく遊ぼうとか、木々とともに暮らす喜びをかみしめようとか、長老を大切にしなくちゃとか、ありがちなものだ。なぜ操作盤のスイッチにあてがわれていたのかわからない。
そこで一同は、わらべ歌らしく、掛詞や比喩、よろしくない隠語などで別の意味にもとれるようになっているのではないかと考えた。できるだけいろいろな意味で解釈してみると、ひとつ、全て意味が通りそうな内容が出てきた。
『遠く離れた恋人をいつまでもまっている。もしもどちらかが先に死んでしまっても、風や木々の導きで知ることができるから、ほかの人と一緒になったら呪ってやる』
ずいぶんと愛が重い相聞歌である。ますます、なぜ書かれていたのかが分からなくなっていく。一同はその方向で解釈するのをやめた。
文章で解釈するのとは逆に、一つ一つ使われている名前を見ていくことにした。動物や植物の名前が多く使われている歌なので、それぞれの動植物のイメージに何かヒントがあるかもしれない。
例えば、日本では狼は孤独とか孤高といった印象を持たれる(夏樹は知らないが外国では逆に群れの印象があったりさまざまである)。野菜や果実の色から、若いことや未熟なさまを青いと表現したりする。そのようなイメージや表現方法をその場の長耳族で思い出したり、言い伝えや物語などの本から表現を探したりした。
スイッチ三つぶんだけ、他の単語とあまり関係なさそうなものがあることを発見した一同は、その三つを押せばいいのではないかと考えた。そして、翌日に再び赴くことを決めて解散した。
再び白い部屋に向かった六人と一体は、操作盤のスイッチを三つ押した。しばらく身構えていても、何かが起きた気配はない。あの嫌な壁がちょっとした段差程度に隙間がかなり広くなっていたくらいで、ほかの部屋を見に行ってもとくに変わったところはなかった。
次回は明日12月1日木曜日に投下する予定です。
(・ω・)さむい……。