はじめての遺跡洞窟<ダンジョン> 2
翌朝、早くから街がうごめいている喧騒が聞こえ、普段遅れがちな夏樹でさえ目がさえ切った状態で朝食をとり、研ぎ屋にナイフ類を取りに行った。特別な処理などの追加料金もない。六人と一体は遺跡へ向かった。
入ってきたのと別の門から森へ出て、長耳族の集落を抜ける。そこから先は生えている木々が変わらないのに、妙な寒さや小さな不安を感じる場所であった。
フリューシャが不安を和らげるためと、魔物よけを兼ねて、呪文でできた簡単な歌を口ずさみはじめ、ダージュが続く。歌を知らない四人と一体はしばらく聞いてメロディを覚えてから鼻歌でついていく。
森に慣れているテトグとフリューシャ、ダージュが前に立ち、シュピーツェがしんがりを務める。口を湿らせながら進み、地図に書かれたポイントまではすんなりたどり着いた。寒気と不安は全員続いているが、慣れてきたのか、感じ始めたときと違い苦にならない。
木々の密度が少し薄い場所があり、付近に巨大な岩がいくつも横たわっている。六人は一つずつ割れ目を探し、あっさりと遺跡の入口を見つけ出した。
岩に張り付くようにして細い割れ目を進むと一メートルもしないうちに広い空間に出た。長耳族の遺跡らしく天井には余裕があり、十畳以上ありそうな広さだ。ダージュとシュピーツェが杖で罠を探り、そのあとを残りがついていき、一通りこの『部屋』の床には罠がないことを確認した。
一行は地図に書き込みをして、通路から二つ目の『部屋』へ向かうことにした。この『三部屋』遺跡は一本道で、迷いはしないしまた来るかどうかわからないが、書き込みは忘れないうちにしておきたい。何もなくても、何もないということを書き記すのだ。
六人で床を確かめつつ進むと、通路がカーブの先で上下から五十センチくらいずつ壁が生えていて。壁には古代の魔法文字で『触れてはいけない』と書かれていて、上側は何度も動いた形跡がある。
その壁の足元には足の骨や折れ曲がった姿の錆び剣などが何本か落ちていて、下の壁は半分ほどがこげ茶色になっている。
「昔なら、魔法で抜ければいいんだろうね。あとは、ジャンプして飛び込む。……文字が読めなくても、この赤黒や骨やらで察しはつくよね。」
ダージュが嫌な顔をする。試しにハユハユを反対側へ投げ込む。何も起きない。
「それじゃあ確認だね……」
杖で、下側の壁を上から強く押してみる。予想通り、地響きがして上側が下りてきて、一度ふさがった。十分程だろうか、時間がたつと上側は元の長さまで引っ込んだ。上側を押しても、同様に壁がふさがる。
まずは高さ的に飛び越えるのが難しそうなタリファを全員で投げ込んだ。テトグ、シュピーツェ、ダージュは助走をつけて飛び込み、難なく通り抜けた。夏樹はぎりぎりだったがダージュの魔法で壁につく前に浮かせて通り、フリューシャも同様にして浮いて通った。疲れ切ったダージュの回復を待ちつつ長めの休憩をとった六人と一体は、帰りも通るのかと思うと深いため息をついた。
二つ目の『部屋』は最初の『部屋』の半分くらいしかない。六人入るととても狭い。三つめの部屋への通路は見えるが狭い上、ところどころ穴が開いている。古典的な落とし穴で、遠目でちらっと中を見ると、岩を削った棘と哀れな犠牲者が見える。夏樹はおなかを押さえだし、フリューシャは涙目で目をふさぎうずくまった。
「元は床でカモフラージュされてて、見分けて進むんだったんだろうな。ここまで古典的ではないが、こうした仕掛けは珍しくないぞ」
言いながらぴょこんと軽く跳ねていくハユハユを追いかけるように、飛び石の如く穴を一か所ずつ飛び越えて慎重に進む。すぐに見えてきた次の『部屋』は妙に明るく見える。
次回は明日29日火曜日に投下します。