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異世界旅行譚 六人が行く!  作者: 朝宮ひとみ
旅の始まりから
74/171

どうして貴方はここにいる? 2

 目が覚めた男性は、寄り添って眠っているドワーフと猫人の女性に驚いて少し体を動かしかけました。それから自分を見つめる男性に気付きました。


「ごめんなさい。勝手に入ってしまって。ええと、僕たちがこの小屋に入ったら、あなたが倒れていたんです。見たところひどい怪我をしていて、体も冷たかったから、とりあえず僕たちでできる処置をしました。」


 夏樹が男性に話しかけると、フリューシャが温かい薬草茶が入ったカップを二つ差し出しました。男性と夏樹は受け取り、夏樹が口をつけます。男性はカップに入ったお茶をじっと見つめています。


「毒なんぞ、入っておらん。私が見たのだから確実だ。」


 ひょいっとハユハユが男性の膝あたりに乗りました。男性は波動生物に慣れているのか、驚きはしませんでした。


「私はハユハユという。茶を入れた長耳がフリューシャ、そこにいる少年はナツキ。そこで寝ているドワーフがタリファ、猫人がテトグ。あと一人いてそいつはダージュ。たぶん貴方が起きたのに気付いているだろうから、何か軽いものを用意しているだろう。」


 薄紫色の波動生物が五人を紹介しますが、男性は名を名乗りませんでした。


「すまないが、私は、なんという名なのかわからない。思い出せないようだ。知識などは、残っているようだが。」


 何をしていたのか、どうやってこの小屋に来たのか、いつからいたのかなど、男性は何も思い出せません。

 煮込んだ芋がほろほろと崩れるスープを飲み、一息ついても、ようやく思い出せたのはただ、何者かに追われてけがをしたということだけ。武器を持っていたということ以外、相手が何者なのかはわかりません。


 荷物を並べてみても、どれもこれも店で当たり前に売られているものばかり。個人の手掛かりにはなりそうにありません。

 その上、東方の港で使われる刃物があれば、北方の漁師が使う風よけの毛皮の帽子もあります。リュックサック自体はアルネアメリアの小売店のものですし、フリューシャたちが見慣れたリャワ産の道具もあります。


 珍しいものではないので、アーシェの警察のような設備や技能や繋がりがない限り、これを購入した人を追うなどして人物像を絞るのは難しいことです。


 持ち物には名前などは書かれていません。あるのは商品名や会社名の銘だけ。共通語しか書かれていないので西方の国のどこかで作られたという程度しか分かりません。東方のものは一帯で広く使われるシュエ語で書かれているのでやはりどのあたりか見当がつきません。


 何より、男性はそれらの持ち物にすら覚えがなかったのです。はっきり自分のものだと言えたのは、首からかけた金属製のタグ一枚だけでした。軍隊で使う認識票です。半分に折れたり二枚使ったりします。名前や生年月日、所属などが分かるようになっています。

 男性のタグには『● Spiietse』としか印字されていません。Spiietseはアルネアメリアなど西方の国の軍隊で使われる用語です。軍の階級の分け方で多少翻訳したときの用語が変わってしまいますが、


ある程度の教育を受けて、隊の上に立ってまとめる立場にあり、現場で指揮を執る人


という共通した要素があります。ハユハユが単語を知っていましたが、そのまま読んでスピーツェあるいはスピーエツェと呼んでしまうと階級とまぎらわしいことになってしまいます。それに、軍隊の階級だとしたら、タグにそれしか書いてないのはおかしいという考えかたもできます。


 アーシェの軍隊での呼び名にすればそのまま呼んでもいいだろうと、ハユハユが夏樹に聞きましたが、夏樹はそういうことに興味がないのでわかりませんでした。


 たった数日だろうとはいえ、この男性をさすのにお前とかアンタとか言うのはお互い気分が悪いし、町の病院を使うには名前が必要です。六人と一体は、スープを食べ、周りを片付けながら悩んでいました。

 結局夜になってしまい、だれからともなく言い出した『シュピーツェ』を男性の名前ということにしました。


 移動に耐えられる程度に怪我が治るまで、雨が上がるまでの数日どころか十日近くも小屋にいた六人と一体は、次の町ですぐに病院と宿を確保しました。



 見舞いに行った五人と一体はそこでシュピーツェに、長い旅をしているなら自分を連れて行ってほしいと提案されて驚きながらも了承し、支度のために町の滞在が少し伸びることになりました。

次回は今週~来週中に投下する予定です。

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