東方式の宿はあいつに向いてない 3
確かに、クリスティンは貴族様であるから、相当の扱いを受けるのはわかる。しかし、優雅に席に着いた割りに、しばらくするともぞもぞと足を動かしているのでやや台無しな印象を受ける。
「叔父上、東方の者は皆がこのような不便な椅子を使っているのでしょうか。なぜなのでしょう。」
六人が知っているよりは控えめだが十分大ぶりに腕を動かして男性に問いかける。足が長いクリスティンには落ち着かないのだ。ずっとごそごそするのは行儀が悪いので結局クリスティンは我慢はするが、かなり不機嫌そうなのであった。
さらに、小さなトングのような、一見つまんで食べるもののように見えたその道具が、実は箸がつながったものだったのでクリスティンはその未体験の道具がうまく使えず不機嫌さをアップさせるだけであった。
同じ部屋で食べている客のうち八割以上が一緒に出されたスプーンとフォークを使っているのを見て安心したクリスティンだったが、少し食べてから叔父たちがその不思議な道具を使いこなして食べているのを見て、これまた「ああっ!」と嘆くことになった。しかも、見れば横のアーシェ人と記憶喪失男も平然と使いこなしているではないか。
「何故なのだ!」
さすがに席を立ったりはしないが真顔で指をさされた夏樹は、日本の箸のことを話した。二本の棒のようなものを使って食べるのだがこの道具を使っている人の手元を見たら持ち方が似ていた、と夏樹が話しつつクリスティンから目線をそらすと、妙に視線が集まっている。
「あそこの黒髪の子、東方の子なんじゃないか?あれ使ってあんなにきれいに食べられるなんて……」
「あの男の子器用なのかな」
「あの貴族の人も所作が美しいね」
「あんな風に使うのか、不思議だなあ」
あちこちで、特にクリスティンの叔父と夏樹をほめちぎっている声がする。
「なあアーシェ人、お前が言ったハシというものは、完全に棒二本なのだろう?そんなものでなんでも食べられるなんてまさに異世界的な発想だな。」
眉間にしわを寄せながら一生懸命食べるクリスティンに突如話しかけられ、困惑する夏樹は思わず
「アーシェ全部で使うものじゃないんだ。えっと僕のいた日本と、その周りの国だけ。」
夏樹の言葉を聞いた五人とクリスティンは、ニホンという国はアーシェの中でも特にクレイジーなのだなという認識を強くしてしまった。夏樹はこの宿に滞在中ずっと日本ではどうなのかを聞かれまくって一人だけちっとも休まらないまま次の国へ向かう羽目になった。
次回は20日くらいまでには投下する予定です。