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異世界旅行譚 六人が行く!  作者: 朝宮ひとみ
旅の始まりから
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こんなところで日本人 3

 夏樹とふたりの女性は、検査の建物を抜けると、すぐに仲間を見つけて走り寄った。

 夏樹の顔を見たダージュが何かあったのかと尋ねると今日子が何か言おうとして満里奈がやめなよと言って口をふさぐように手を伸ばした。

 それを見た夏樹も何もないよとダージュに手を振ってみせた。テトグを除く皆が、何かを察して何も尋ねずに黙っている。テトグは夏樹に何か寂しいの?と尋ねて、夏樹がちょっとね、とだけ言ってふいと顔をそむけたので不思議そうにしている。


 話題を切るように、アルティスが話し始めた。待っている間に町の人にいろいろ聞いてみたら、穴場の店を教えてくれたんだ、と無理のない程度に明るく話す。


「有名店を引退した人の店で味はいいし、値段は相応だけど高級じゃないし。見に行ってみたら雰囲気もいいし、いい匂いがしててさ。馬車停めたところの近くで歩くと程よくおなかがこなれる感じかも。」


 シュピーツェが、場所も大通りでも裏路地というほどでもない場所にあって安全だろうと話を受け、フリューシャが匂いからハーブの話を始めながら歩きだし、周りも歩き始める。

 そのまま店の内装はどうなっているのか予想や、何を食べるかなど、昼食の話題一色になり、盛り上がったところで店に着いた。




 店は予想通りのおいしくて値段もちょうどよい、雰囲気が素晴らしい店だった。

 一行は店の外に出ると、多少の買い物がしたいという満里奈と今日子の意見によって数人に分かれて行動することになった。ふたりとタリファ、テトグという女性陣は男性陣に待ち合わせの話だけしてさっさと大通りのほうへ消えていった。

 ダージュとアルティスは馬の様子を見に一度馬車に戻るという。特に用事も見たいものもない夏樹、フリューシャ、シュピーツェは三人残され、適当に散策しながら待ち合わせ場所の近くの店でものぞくことにしよう、とゆっくり歩き出した。


 夏樹は、ふたりにだけ、同じ日本人の遺体が見つかっていろいろ聞かれたことと、それが自分の知り合いの可能性が高いということを打ち明けた。そして、その知り合いだという大翔ひろとのことを話した。




 夏樹と大翔が出会ったのは、高校の入学式の日の通学路だった。駅前の大通りで、駅から吐き出されるように出てくる大勢の中高生が道を埋めていた。

 二つの公立中学、一つの公立高校、四つの私立高校の生徒のほとんどが集まる商店街は越してきたばかりの人がうるさいと警察に苦情を言うくらいに喧騒にあふれている。つまりは、友人同士おしゃべりをしている生徒・学生が多い。


 だが夏樹は中学までまったく別の県にいたため、友達がいなかった。同じように一人で歩いていた大翔に声をかけ、一緒に歩き始めたのがきっかけで仲良くなった。


 大翔が一人だった理由は、病気がちで合わせて歩くことができないからというものだった。

 意図的に、誰かを誘わずに一人で登下校するのだという。生活には支障がないので、通学のためだけに出勤前の忙しい親に送ってもらうように頼んでも怒られるだろうと大翔は言った。


 片親だという以外、親のことは大翔が言わないのでわからなかった。ただ、別の友達や職員室への聞き耳の結果、家庭環境が良くないことだけは夏樹にもすぐ理解できた。夏樹自身も、あまり親と仲がいいとは言えない状態になっていった。


 夏樹は大翔を誘って商店街のゲーセンや、新しく友達になった人と一緒に遊んだりした。その時間が、彼らにとっては一番の楽しみだった。


 ところが、二年生に進級した始業式の日、夏樹は大翔と出合うことはできなかった。学校が違うからはじめは気にしなかったが、何日たっても、大翔は朝来なかった。家が分からないから大翔と同じ制服の人の話に耳を傾けたり尋ねたりした。

 その結果、大翔は半年から九か月ほど入院することと、そのために休学になっていることを知った。難しい手術をするらしい。

次回は明日10日木曜日に投下します。

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