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異世界旅行譚 六人が行く!  作者: 朝宮ひとみ
旅の始まりから
65/171

こんなところで日本人 2

外傷などの描写はありませんが遺体(の説明)が出ます。サスペンスとか苦手な人は注意するか一気に下のほうまでスクロールしてください。

 夏樹と満里奈、今日子は国の外にあたる小道を進んで、途中で止まった。木の陰に布がかぶせてある。案内した兵士は説明した。


 今朝、黒髪黒目の、身元がその場でわかるものを持たない遺体が見つかった。国内にいる、あるいは出入国する黒髪黒目の人間すべてに、顔写真と遺体が着ていた服を見せて、身元に関する情報を集めているのだが、有効な情報はない。


 遺体は外傷はなく、検査中だが病気か毒物などで死んだ可能性がある。毒物であれば殺人の可能性も出てくるだろう。人種・性別はアーシャ人の男。髪は短く刈り込まれている。服装はアーシャ式の灰色ジャケットと紺色のアーシャ製のズボン、黒い革靴。服のポケットはすべて空で、カバンの中には寝袋とツール類と隣国で売られている携帯食料の空箱、アーシャの医薬品の小瓶と電源の入らない地球式汎用携帯端末スマートフォン


 荷物はすべてアルネアミンツで調べている最中。電源の切れたスマートフォンを充電できるのはそもそもこの世界では全世界に十か所くらいしかない。順番待ちを特別に割り込んでようやく充電を始めたばかりであり、電源が入るのは最短であと五時間後。もちろん満充電という意味ではない。

 医薬品は医療の国テルミネへ運ばれて何の薬か調べてもらっている。こちらは最短であと五~六日かかる。




 覚悟を決めて、夏樹が囲いの上の布をめくる。遺体そのものはないが、それ以外は発見時そのままだという。気分のいいものではない。体から零れ落ちた血液や体液が固めた土の上に模様を描いている。兵士に衣服や持ち物の写真を見せてもらうが、三人ともさすがに遺体の写真を見る勇気は出なかった。


 夏樹は風邪くらいしか病気をした覚えがなく、薬はわからなかったし、寝袋はアーシャの会社の名前が入っているくらいしか気づくことはなかった。ツールもただ地球から持ち込んだのだろうなとしかわからず、スマートフォンは台数の多い有名な会社のもので、シンプルなカバーに入っていて好みをうかがうことすら難しそうだ。


 だが、ジャケットとズボンだけは、夏樹にとって特別なものに映った。夏樹が通っていた学校とは違うが、知っている学校の制服だったのだ。

 私立の学校で、一貫ではないが中学と高校があり、ジャケットのワッペンやズボンの色など、共通のデザインで一部異なるという制服になっている。

 制服を見る限り、彼はアーシャではその学校に通う高校生だった可能性があるわけだ。女性二人には特にわかることはなかった。


 夏樹は制服のことを話した。そして、三人のうち自分だけ、遺体の顔写真を見せてほしいと頼み、女性二人から離れたところで見せてもらった。


大翔ひろと……なんで、だよ。」


 夏樹は写真を兵士に返すと、ぐっと歯を食いしばって泣くのを我慢しようとした。少しずつ嗚咽が漏れ、離れていた満里奈と今日子が夏樹のほうを振り向いた。




 夏樹は、身元に思い当たる人がいると話した。

 同じ市に住んでいたはずの友達で、名前は岬大翔みさきひろと。同い年だから十八~十九歳で、母親か父親とふたり暮らしをしているというのと、何か病気のせいで一年休学して学年が夏樹の一つ下だという以外は、遊びや学校の授業の話しかしていないので本人のことがよくわからない。


 夏樹は、準備を始めるまで、渡航のことを彼にしか話していなかったほど、大翔と仲が良かった。しかし大翔のほうは、異世界なんてばかばかしいという態度で、引き留めはしないものの夏樹の渡航をどちらかと言えばしないほうがいいと感じているようだった。


 兵士が夏樹の肩を軽くたたいて歩くよう促し、三人の日本人は検査の建物に戻った。


「ご協力、感謝します。では、そちらの関係機関に、『ヒロト・ミサキ』について調査を依頼し、追ってナツキさんには連絡します。」


 一番階級が上と思われる兵士は最後に、夏樹を一度抱きしめた。


「……お辛いでしょうから、どうかゆっくり、せめて体を休めていかれるとよいと私は思います。」

次回は明日9日(水曜日)に投下します。

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