砂漠はまだ渡れない 2
その魔法使いは、ハユハユが六人と出会う前にともに旅をしていた人だ。長くても一年たたないくらいの間だけ共に暮らし、ある日フリューシャたちと出合い、突然ハユハユを押し付けて去っていったのだった。
自分のことはハルカと呼べ、と魔法使いは出会うたびに言う。名前はハルーミン・アルカディアといった。ハルーミンという名前は六人がまだ訪れていない、大陸中央部の高地や山岳地帯の名づけのようだが、彼女は自分の生まれや家族などはまったく知らない。
「先生なのだー久しぶりなのだー」
楽しそうにゆらゆら揺れたりハルカの周りをふよふよ漂うハユハユは、どこにでもいる普通の波動生物と変わらないゆるーい雰囲気をまとっている。
ハルカはしばらくたわむれた後、フリューシャに一つくらいは遺跡を踏破したのかと尋ねた。そのときはまだ、崩れかけて奥まで行けない洞窟に行っただけで、成人の旅の試練のための集落めぐりすらまだ一か所しか回れていない。
話を聞いたハルカは申し訳ないと言いたげにしょぼくれたフリューシャの肩をたたいた。隣のダージュがあと二つくらいは回るつもりだったと愚痴った。
「いいんさ。儀式以外は、本人の心の問題だからね。それに、行き先が決まってないなら、近くにあたしが昔入った小さな遺跡があるから、行っておいで。無くなってなければ傍に村があるから次の行き先を決めるまで滞在できてちょうどいいと思うんよ。長老にも会えるしさ。」
六人と一体はハルカの言う遺跡に行くことにした。村の場所や目印を、手持ちの地図に書き込んでもらい、経由する町や関所、そこまでの目安の時間などを考えてダージュが手帳に書き出していく。
「何か言われたら、その村でだったらあたしの名前を出していいからね。本当はついていけるといいけど、面倒な仕事が入っていて砂漠に用があるのさ。ごめんなさいねえ。
でも、砂漠に初めて入るときは、あたしを呼んでね。携帯端末持ってるから。」
ハルカは皮紙に何か書きつけてフリューシャに渡した。村の人への言葉と、端末の番号だ。彼が懐についているポケットにたたんで入れると、ハルカは別れの挨拶を残して去っていった。
「僕たち、そういえばだれも端末持ってないね。」
フリューシャの呟きは他の五人には聞こえていなかったり聞かなかったことにされるのであった。
次回は七日(月曜日)に投下します。