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異世界旅行譚 六人が行く!  作者: 朝宮ひとみ
旅の始まりから
60/171

古めかしい都市国家と猫獣人ワシェナの村 2

 村が見えてくるまで、四人にはわからなかったが、テトグは鼻が利くのだ。犬耳や猫耳やキツネ耳の獣人は感覚が鋭い。風向きの加減で、村のにおいが届いたのだろう。


 村の少し手前で、四人は何人かやってきた村人に事情を話した。村人たちは皆テトグと同じように耳やしっぽ、体毛が生えていて、近づくと草の香りのような、町の人間よりは少し強い匂いがした。


 村は探しているテトグの故郷ではなかった。しかも、村で改めて人を集めて聞き込みをしていくと、もう、その村は移動したか滅ぼされたかして消えてしまったのだとわかった。獣人の村の移動は珍しいことではない。滅ぼされたという確実な証拠がない限りは、もしかしたらまた同じような場所に村ができるかもしれない。


 このあたりで一番大きな獣人の村だというし、そのままここに入れてもらったらどうかとフリューシャが提案し、村人たちがそのためにわいわいと話し合いを始めた。午後の休憩には少し遅いが、皆のどが渇いて彼のお茶を分け合ってのどを潤しているところだった。


「城壁から兵士が出てくる!攻め込まれるかもしれん!!」


 偵察に出ていた村人が村人の輪に飛び込んできて叫んだ。皆それを聞いて一斉に散り散りになって、住居をたたんでいく。組み立て式になっているのだ。荷車に積んで、どんどんと逃げていく。


「南西の森ならなんとか間に合う。あなた方は私と来なされ。友人の鳥を貸そう。」


 村長だという老人が、乗鳥に乗って四人の前に現れ、手招きした。追いかけていき、同じように乗り込む。夏樹はまだあまり上手くないので、フリューシャと二人乗りだ。テトグも、あまり乗ったことがないというので、別の村人と同乗している。




 広い森まで少しというところで、村人の一人が村長のところへ来た。どうやら、何人かちゃんとついて来れていないと分かったのだ。

 近くにいる者がざわつき、村長が鎮めようと声をあげた。老人とは思えない、太くしっかりした声で、側にいた四人も驚くほどである。何人かが申し出て、その者たちだけ村へ引き返すことになった。その中には借りた弓を帯びたフリューシャもいる。


 村の前で、例の都市国家の印をつけた兵士が数人、乗鳥で近づいてきた。皮紙を見せつけながら鳥にまたがったまま手の届くところまで近づき、皮紙を村人の一人に渡した。


『制圧の証拠として、七名の子供と二名の男、四名の女、計十三体の獣人を持ち帰ることにする。手出ししなければ、これ以上追跡はしない。我が国から離れて暮らすがいい』


 報告書のようだった。聞き取ったらしき名前が余白にメモのように書き散らしてあり、同じ文字で、署名があった。相手の軍の司令官のもののようだ。


「なぜですか!機関条約で獣人の売買や奴隷化は禁止されているのに!」


 フリューシャが叫ぶと、兵士の一人が、俺たちは機関には屈しない、と言った。兵士たちはにやにやしているばかりだ。


 この世界には国連を強力にしたような、『国際機関』という機関がある。小さな都市国家でも最低一名は人を送るか、申し出て、担当の者を用意することで機関に協力しているとみなされる。

 それによって会議が行われて条約が作られたりするが、組織の長に加盟国の上に立って抑える権限があるとかそういうことはないし、協力している国々が、条約に従うことを機関に屈しているととらえているわけではない。


 村人が何人かでフリューシャをなだめ、書状を持って戻っていった。戻っていく姿を、兵士たちはそのままにやついたまま見つめている。


「仕方ないんだ。連れて行かれては、我々ではどうにもならない。いくら小さい国と言っても、人数が違うし向こうは武器だって用意している。」


 戻りながら、先頭を走る鳥の村人が悔しそうにつぶやいた。

次回は明日2日(水曜日)に投下します。

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