言葉は大事なオマジナイ 5
後半に補足がありますが読まなくても問題ありません。
対策部署の人と占い師に囲まれ、クリスティンが指示されながらペン先を走らせている間、フリューシャはその脇で灯りの魔法の特訓をハユハユから受けていた。
「そもそも!きさまがー軟弱なのがいけないのだァ!」
口調は先日の説教だが声は普段のままで迫力も凄みもない。それでもフリューシャはしょんぼりと術式のテンプレートを口にし、手のひらにぼんやりした灯りの球体が浮かんだ。しかし、まるで電池の切れかけた電球のような、役に立ちそうにない明るさだ。大きさもふよふよ伸びちぢみして、ぶつん、と消えた。
「もっと対象を絞り込んで!ちいさくしてみろ!まずは明るさはいいから一定に保てるように!」
「あああ、違う違う、そうじゃない!その単語はそこじゃない!」
唱え方を間違え、突然まぶしい光が一人と一体を襲う。ついたてがなかったら本来の目的を邪魔するところであった。ころりんと後方にひっくり返ったハユハユを元に戻したフリューシャは、手元の茶をごくごく音を立てて飲み干した。詠唱と緊張と集中でのどが渇く。
「んん”……こんなもんじゃないかねぇ」
フリューシャの横でボウルの水を飲み、ハユハユは人間なら眉間あたりだろう場所に変なしわを寄せてつぶやいた。
成り行きで占い師宅で占い師のおばあさんとクリスティンと六人と一体は共に食事を取ることになった。片づけを手伝っているハユハユが突然話し出した。
「これからも、できそうなところで練習することにしよう!ついでに他の奴らもな!」
「僕もなの?」
夏樹が聞くと、ハユハユはもちろん全員だ、と答えながら夏樹の頭をわしわしした。
「大丈夫だ、世界が違うから波動が違うけれども、必要な波動はアーシャーイア人も十分持ってる。むしろ、一部の波動はとんでもなくそっちのほうが多いんだなー。慣れれば、あんな不発魔法くらい浄化できるぞーたのしいぞー。」
「それにな、わしは嘘はいわん。嘘のつもりで言っても、いつか、本当にお前たちに教える日が来てしまうからな。それなら、はじめから本当にしちまったほうがいい。」
「言霊ってやつだね」
コトダマって何だ?とダージュが横から割って入った。その隣でフリューシャも話を気にしている。
「細かい意味は知らないけど、言葉には魂があるって意味だよ。悪いことを言うと悪いことが起きるから、なるべく言うなら心の中だけで。起きて欲しいことややりたいことは、どんどん声に出すんだって言われたことがある。」
夏樹が言うと、二人と一体はいい言葉だな、とほぼ同時につぶやいて、顔を見合わせて笑った。
占い師の家を出た六人と一体は、背中にクリスティンの叫びを浴びながら、無視して宿に戻り、これからどうするか話し合うことにしたのであった。
~~~~~読まなくていい補足・魔法について~~~~~
この世界の主な流派の魔法は、RPGやファンタジー的な魔法ではあるが、簡単な呪文を唱えたらよいというものではない面倒なものである。
簡単なものでも、いくつか最低限の要素を指定する言葉を組み合わせて呪文を作る。いちおう最低限のテンプレート的なものが存在し、それだけでも灯りの呪文であれば松明代わりくらいの灯りを三十分~一時間ほどともすことが出来る。
長耳族のばあいはそのテンプレートが短いだけで仕組みはほぼ同じ。唱える以外に、魔法文字と呼ばれる古代文字の一種を使用して魔方陣を描くという方法があり、時間差や遠隔地で魔法の効果を発揮することが可能だが、もちろん唱えるよりも効果は落ちる上、細かい効果の指定は出来ない。
難しい、もしくはあまりに強力な魔法を使う際は、単に触媒の宝石や道具を身につけるだけでは波動が足りない。よって、世界のあちこちにある「力場」と呼ばれる場所で行わなければいけない。
波動を一度に放出しすぎると生命力を削る。人間なら軽ければ頭脳労働的な疲労があらわれ、より重くなると断続的な頭痛、吐き気、気絶などが起こり、それでも足りなければ物理的に身体を傷つけてしまうため、死ぬ。
人数は少ないが別の流派が存在する。記録は少ないが、生活に根ざしたものより、凶悪な使い魔をつくりあげて召喚するとか、大勢の人々をむごたらしい死に方させるなどという、ある程度の範囲内に被害をもたらすものであることと、上記の魔法と混ざった流派がいくつかの地方に土着信仰のようなものとして生き残っていることが分かっている。
魔法は長耳族が記録を残し始めたころにはすでに存在し、三千年以上の歴史の後、戦乱の拡大やおぞましい魔術開発競争が起こったことが要因で戦争終結と同時に、長耳族が全人口の五割以下にあたる広い地域では原則禁止となった。
その間、歴史研究や魔道書の所持すら公には禁止となり(一部地域で守られていなかったことが後に判明する)、長耳族のあいだですら、生活に使う魔法以外忘れ去られた集落もある。まして、他の人間と混ざり合う者たちの間では完全に使われなくなった、
早いうちから割合による控除はなくなってほぼ全土で禁止に切り替わったため、南方の森や海で暮らす長耳族は禁止された地域と交流を減らしてしまっていた時期もある。
二十年ほどかけて徐々に禁則を緩め、ついに十年前に高等教育機関での研究のみ解禁され、三年前に教育が復活した。人数は少ないがどこの学校へ行こうと難関であり、全うに卒業試験を通過しただけでなく成績上位のクリスティンがとても優秀なのは確かなのだが……。
そのまま次のおはなしもお楽しみいただければさいわいです(・ω・)