古めかしい都市国家と猫獣人ワシェナの村 1
まだ四人だった頃のことである。一行は、しばらく町や村のない、緩衝地帯を街道に沿って進んでいた。最寄りの都市国家までは丸一日以上かかるし、緩衝地帯だから街道沿いに小さな集落でもあれば幸運だというくらいに人がいない。
関所も小さく、どこかの軍や自衛組織が来たら場所を明け渡さないといけないくらいに、設営場所が狭かった。
最後に関所を通ってしばらく歩くと、一キロ程度だろうか、離れた場所に小さな森が見えた。
木材をとるための針葉樹林が植えてある場所なら少し前に通ったが、とっくに通り抜けていて、雑草の生えた空き地や放棄された畑などが広がるばかりだった。
その小さな森は、木材用の木よりも、長く時間がかかってもっと大きくなる種類の樹ばかりのように見えた。疲れ切っていた四人は、日陰でしばらく仮眠をしようと、森へ近づいた。
森は、まるで鎮守の森のようだった。もちろん神社はないが、ほんの少しの隙間から、朽ちかけた木造の建物が見えた。とりあえずはその建物で休もう、と四人は建物が見える場所から、森へ入り込んだ。
不注意から、踏み出した四人は罠にかかった。珍しく不用意に踏み出したダージュが最初に罠にかかって草を編んだ袋に釣り上げられた。そして助けようと草の周りを動き回っているうちに三人も後を追ったのである。
しかし、罠があるということは、何者かがいるということだ。
「ごめんなさい!僕たち、ずっと街道を歩いていて、日陰で休みたかっただけなんです!」
夏樹が叫ぶと、ほんとうに? と聞き返す声が返ってきた。女の子のようだが、訛りというか、活舌が悪いのとは違うが何か話し方が違うように聞こえる。
ほんとうだよ! とタリファとフリューシャが一日歩いていたことを話すと、袋が下ろされ、何者かが近づいて袋の口を緩めた。
袋の口から見えたのは、こげ茶色の猫の耳を生やした女の子だった。耳は時折ひくひく動いて、周りの音に気を使っているように見える。
「休んでもいいけど、かわりに教えてほしいの。」
罠の始末をした猫耳の子は、何日分かの街道沿いの詳しい様子を聞きたがった。どこかに、彼女の家族や仲間がいる村があるはずだという。
四人が知る限り、そもそも猫耳の獣人を見たのが、港に着いたときと、数日前にいた町で働いていた何人かだけだった。その町の近くには村があるらしいが、それでも人間の町から遠く離れているし、女の子の言う村と話が合わない。
最後に通った関所で話を聞こうかと提案してフリューシャが関所まで女の子を連れて行ったが、関所にいた兵士はアルネイシャの出身で、このあたりのことを知らなかった。その兵士は端末で少し先の関所に聞いてくれたが、結果は芳しくなかった。
「この先に、獣人の村があるにはあったらしい。でも、近くの都市国家が村と対立していて、案内はできないそうだ。」
案内をつける、つまり村に近づこうとすると、都市国家側に獣人の仲間とみなされ、攻撃されるのだという。その国は国際機関に人を出しておらず、街道もその国を迂回してつくられている。
「それでも構いません。ただ、だいたいの場所だけ教えていただければ、自分たちで探します。」
女の子は関所の兵士にしがみついて頼んだ。
「自分たち、ってまさか、俺たちも入ってるの?」
ダージュが落胆した。村でたくさんお礼をすると女の子は言う。フリューシャと夏樹が、獣人と会う機会があるのはすごいなとただ興味を示して、ダージュはさらに表情を暗くした。
軽い昼寝をして、四人と獣人の女の子テトグは、目的の村らしきところへ向けて出発した。しばらく街道を沿って進み、都市国家の高い建物が見えてきたところで、街道をそれて、方角を頼りに進んだ。しばらく曲がりながら進むと、テトグは四つ足で走り出した。四人は必死に走って後を追った。
次回は明日1日火曜日に投下いたします。