面倒くさい貴族 3
目的地である町は、貴族が向かうにしては不向きな場所だった。観光になるものはない。都市国家時代の城壁にある町の入り口にいた番兵もちゃんとした検査官ではなく、兵隊の下っ端と言った風だ。身分証を見せるのと簡単なやりとりを従者と貴族にしただけで通れた。
町の中心にある役所の前で、貴族は護衛一同に報酬を渡すと言って、金貨をたくさん通した紐を渡した。日本でいう棒金である。少ないと十枚、多いと百枚一組になっている。
五人組の一人はもらってすぐそのまま金貨を調べ始め、ほんものだ!!と喜び飛び跳ねて、貴族が舌打ちした。従者が双方をなだめると、二人組の分らしき分を一つずつ、五人組のリーダーとフリューシャに渡した。
「何もなかったじゃん。あいつら損したなー」
五人組と四人組は、共に適当な店で食事をほおばっていた。あまりおいしくない。次の町で、従者の言ってたうまい店に入ろうぜ、などと話をしながら仲良く食事を終えて店を出ると、周りの様子がおかしかった。
先の役所の前の空き地に人がぎっしり集まっている。よく見ると、このあたりを領土とする国の首都の印が入った旗や兜を身に着けた兵士が、人々を整列させていた。そして町に向けて同様の兵士たちが散らばって何かを探している。
慌てて店の外へ逃げようとした五人組を、ダージュが呼び止めた。
「待ちなよ。出ていくと、たぶん俺たちは捕まる。…………俺の思い違いや、杞憂ならいいんだけど、あの貴族様を探してるんじゃないかと思うんだ。」
背格好が小さいタリファが適当に服を変えて近づき、兵士たちの会話を盗み聞きすると、杞憂などではないことが分かった。
どうやらあの貴族は、不正な大金を任されて、すぐに関係ない誰かの手へ渡らせる必要があったらしい。予定外の行動や、妙なウザさは、雇った者に上乗せする口実や、もらったお金をうさばらしでさらに使ってもらうためだったのだ。
だいたい、それなりの地位がある貴族が従者だけ連れ最少人数の馬車ひとつ借りただけで旅に出るというのがおかしいのだ。なるべく自分のお金は使わず汚い金をさっさと捌きたかったのだろう。泊まる場所や食事がケチくさかったのは、見た目との釣り合いだったのだろうか。
タリファが店に戻った後、九人はいかにしてこの場から逃げるかを考えるしかなかった。現にもう、店の入り口で店員と兵士が話をしている。さらに、店員がちらちらとこちらを見ている。兵士が店員と話しながら近づいてくる。もう終わりだ捕まる!九人は全身をこわばらせた。
と、兵士は意外なことを言った。
「被害者の方々ですね。今回は本当に、ご迷惑をおかけしました。」
しかも、頭を思いっきり下げた。その後ろから、あの傭兵二人が入ってきた。彼らが言うには、あの貴族様は、本当は貴族でも何でもなく、このあたりを転々としながら金を巻き上げる詐欺師なのであった。従者も一味だ。実はあの傭兵二人は偶然依頼主が詐欺師かと疑い、依頼を受けた後に書類などを今所属している軍へ送って、調べてもらっていたのだ。そして、昨日、確証が得られたので一同に抜けると言った。
もし、抜けると聞いて何か動きを見せたら即座に軍が動くところだったという。実際は動きを見せなかったので、軍は詐欺師が町に入るところを確認し、町を封鎖したのだ。
従者に質問していたのは、貴族についてのことで、領地や領地を与えたのはなんという王かなど、従者であれば知っているであろう事柄をいくつか尋ねたのだという。あの従者はいくつかで矛盾した答えを出したので、彼らはさらに確証を得たのだった。
関係するお金ということで金貨はすべて没収されてしまった。五人組はそのままヤケになって去っていったため、軍からの補償をもらうことができなかった。四人は軍についていって大きな街へ出て、半分ほどになってしまったものの金貨を得て、ある程度貯金することができたのだった。
次回は31日月曜日に投下します。