その場で食べたら保存食にならない
あるとき、六人と一体は宿を取り損ねてしまい、旅人がつかえるキャンプ場で野宿をしていました。どうせ一泊二泊するだけだし、ここのところはうまく宿に泊まれていた期間が長いし、と六人と一体は気にしていませんでした。
思い立って、フリューシャは保存食を兼ねた固焼きのクッキーを焼くことにしました。長耳族の伝統のお菓子で、二度焼きしているので固くて乾燥していて傷みにくく、旅をするには便利です。
お茶にもよく合っているので保存目的でなくてもいろいろなナッツを入れて焼いておやつにすることもたびたびです。お茶が広まったことで長耳族以外でも好む人がいて、大きな菓子店ではたいてい売られています。
いーっぱい作ろう! とみんなノリノリです。お菓子は場所によって入手しづらいのです。
観光地でないちいさな田舎の村へ行くと、こどものおやつは木の実をとってかじるのが多いです。お菓子はあるにはありますが、味のないスコーンのような、ほんの少ししか甘みがない、パンに近い生地を焼いたものです。木の実や穀物の粉とサトウキビなどの甘い汁を混ぜて焼くのです。生地を寝かせておいたり、イーストを入れて発酵させたりするとパンにもなります。
ほぼすべての地方で小麦粉が入手できないこの世界では、数種類の穀物の粉を使った穀物粉がほとんどなので、出来上がったパンやお菓子の味は一定ではありません。売られている粉はだいたい一定になるように配合されていますが、店でなく個人で作るときはその時に安くなっている豆やランクの下がった穀物粉を混ぜるからです。
東方では小豆を使ったお菓子が作られていますが西方では小豆はほかの豆と一緒に煮込んでスープにするか、挽いて粉として使うものです。逆にチョコレートは西方ではお菓子やその材料として冷たい、あるいは固体で食べますが、東方では滋養に良い物とされ温かい飲み物として摂取します。
お菓子の話をしながら、夏樹はナッツを砕いて、生地の入ったボウルに流しいれます。手早くフリューシャがまとめて、ダージュが冷風の魔法で生地が温まらないようにしながら、細長い型に流し込んでいきます。それをテトグとタリファが運んで、シュピーツェがオーブンの用意をあらかじめ済ませて待っています。
火加減をしながら、三十分ほどで一度目の焼き上がりを迎えます。オーブンが冷めないうちに素早く全員で一つずつつまんで、二度目の焼き上がりを待つ間に普通のクッキーとして食べてしまいます。
二度目が焼き上がると、しっかり冷ましてから密封容器にしまって出来上がりです。これまた、熱いうちにみんな一つずつつまんでしまいます。二度食べているわけですから、十四個、減ってしまいます。ちゃあんと、それを見越していっぱい作っておくくらいには気が回るフリューシャなのでした。
次回は水曜~木曜に投下します。